
☆前編はこちら☆
ーー壁を乗り越えた経験だったのですね。
定時制高校に入ってからどうでしたか。
米澤:入学すると、当初想定していた生徒層とは違う子がたくさん来ており、最初は少し驚きました。
片親の家庭であるとか、家庭が荒れているという生徒も多く、そうした世界を知れたことは貴重でした。
ただ、高2になって、まわりと話があまり合わないなぁと気づいたんです。
夜間に学校に通い、日中は西宮サドベリースクールのスタッフと飲食店のアルバイトを掛け持ちするという生活でしたが、
だんだん学校に通う意味がわからなくなってきて。
プログラミングや簿記も一斉授業で学ぶより、独学した方が効率的。
もっと色々な高校生に接してみたい。
そんな思いで見つけたのが、高校生がスポンサーをつけて
イベントを運営している関西高校生文化祭という団体でした。
参加したおかげで、灘高に通う子や早慶に行って起業を目指す子など、
非常に優秀な高校生たちに出会うことができましたね。
「学ぶ意欲が高い子と、勉強が嫌いな子の差はどこからできるのだろう?」
という問いも生まれました。
ーー米澤さんの好奇心と課題意識の広さや深さに今圧倒されているのですが、
どこから湧いてくるのでしょう。
米澤:自分がもつ関係性の狭さに風穴を開けたいという思いからです。
まだまだ知識が足りないし世界を知らない。
一つ興味をもって調べると、また新たな興味や疑問が派生していく。
あとは自分の特性上、「理屈で考えている」ときは行動につながらないんです。
本当にやりたいときは考えこむ前に、直感で動き出している。
D×Pのインターンも、気がづいたら応募していましたし。
実は大学に通おうかと検討していた時期があるのですが、
ある大学の授業とゼミに潜りで参加させてもらいもしましたが、
今は通う時期ではないなと直感しました。
もちろん大学で4年間学びたいことを追求できるのは魅力的です。
ですが、僕が今学びたいのは、ある社会問題を解決するという目的のための学問。
「社会をこんな風に変えたい」という視点に立っているので、単一の学問を修めるより
もっと複合的に学んでいきたいという気持ちが大きかったんです。
ーー本当にやりたいことなら、頭であれこれ考える前に
直感が教えてくれるのですね。
社会問題を解決したいという思いについて、もう少し詳しく聴かせていただけますか。
米澤:関西高校生文化祭というイベントに携わり、色々な人にお会いしたりする中で
グローバル経済や格差社会の問題にふれ、
社会に対する「なんで?」という疑問を流したくないと思ったんです。
こうした問題の根っこには、コミュニケーションの問題が横たわっていると思っていて。
普段、サドベリーの広報をしていて、伝えることの難しさを感じることが多々あるのですが、
言い方一つで相手の受け止め方は変わるし、受け止め方自体も相手によって違います。
文化が違えば、この受け止め方の多様性はもっと幅が出ますし、
世界の政治や経済の問題も、コミュニケーションの不毛さから生まれるのではないかと感じ始めました。
まずは「今この世界で何が起こっているか」を知るには過去を知らなくてはいけないと思い、
政治や経済史、歴史、哲学…色々な本を読んで、
その知識や知恵が課題解決にどう役立つのかを考え続けています。
直近では手塚治虫の『火の鳥』からも人間や社会の本質について
非常に多くのものを学び、感銘を受けているところです。
ーー米澤さんにとって、コミュニケーションの課題は大きなものなのですね。
米澤:そうですね。コミュニケーションの不毛さは親子間にも生じていると考えています。
実は僕自身、父親との関係でコミュニケーションの課題に直面していました。
例えば自分が何かをやりたいと言って、許可してもらえないときに
「なぜダメなの?」と尋ねても、理由を説明せず
「俺が養っているんだから」の一言で片づけられることがありました。
一方通行なコミュニケーションへの歯がゆさを感じていたからこそ、
こうした不毛さを解消するために何とかしたい。
そんな思いから、この秋には子育てイベントを実施しました。
親御さんに、サドベリー教育のエッセンスをお伝えし、
色んな教育観や学校の選択肢があることを知っていただき、
それぞれの子どもにとって良い環境で育ってくれるなら本望ですね。
単一の物差しで評価される社会は生きづらいし、もったいないですから。
ーーD×Pのインターンシップに参加されてみてどうですか。
米澤:当初、直感的にこのインターンシップに弾かれたのは、
自分も定時制高校に通っていたことや、
広報スキルを身につけたいという思いと一致したというのがあります。
実際にキャリア教育プログラムのクレシェンドという授業に参加していると、
自分より少し若い高校生たちとふれ合うのがとっても楽しくて。
深いテーマで話せる高校生も多いですし、彼らから学ぶことも多いんです。
「色んな生き方がアリ」だと伝えられる場があるって素晴らしいと思いますし、
コンポーザーの方々もご自身がよいと思った生き方や価値観を伝えてくださるので、
サドベリースクールのように「子どもに全て任せる」だけでなく、
ある程度プログラムを大人が考えてから場を提供する方がいいケースもあるんだと学びました。
ーー将来の夢やチャレンジしたいものは何ですか。
米澤:サドベリースクールに通う子たちが
目をキラキラ輝かせて、好きなことを追求している姿に日々ふれていると、
社会をよくするエネルギーや可能性を強く感じるんです。
「ひたむきに追求する子どもの姿勢」を自分自身ももっていたいですし、
こうした興味や特性を、子どもも大人も発揮できる環境づくりが夢ですね。
壮大かもしれないけれど、日本をもっと良くしていきたいという気持ちが強くあります。
この夏、小豆島に自転車でバックパッカーの旅をしてきました。
野宿しながら「自ら育てたものを自ら消費する」という地産地消の暮らしに
興味が湧いていたからです。
旅をして、定住せずに狩猟民族的に釣りをする生活に強く憧れましたね。
そして改めて感じたのは「普通じゃなくていい」ということ。
もちろん、いい大学、いい会社に入って着実にキャリアアップしていくという人生もいいと思います。
ただ、自分が目指す生き方とは違う。
周囲の目を気にせずに、ワクワクする思いや直感に素直になって、
チャレンジしていける人生がいいなぁと思っています。
自分自身の声を聴いて生きていきたいですね。
☆☆☆☆☆
本当にやりたいことなら、頭で考えるのでなく、直感で動く。
この言葉にはすごく頷けた。
好奇心と直感の鋭さは、子どもの頃の自然体験やサドベリースクールでのプロジェクト、
そして「探求型の学び」である釣りの「狩猟」の経験を通じて
磨かれていったのではないだろうか。
一方で、非常に思慮深い人という印象を抱いた。
インタビューの終盤で
「幸せとは何か、社会をよくするには…といった問題を毎晩考えている」
と発していたのが記憶にこびりついている。
彼は世の中の疑問や矛盾を見逃さずに、
社会の課題とその解決につながるものへと、高くアンテナを張り巡らしている米澤さん。
サドベリースクールという自分で自由に決める環境で道を切り拓いてきたからこそ、
自分と、自分を取り巻く社会、そして社会の常識の枠の存在と
これでもかというくらい向き合ってこられたのだと感じた。
ワクワクする気持ちや自分の声に耳を澄ませて、
直感と熟考という強力な武器をもとに
社会を変革していく若きイノベーターに出逢えたことは
インタビューをしていてよかったと心底思える瞬間だった。