2015年06月16日

デジタルマーケティングの最前線を切り拓く経営者 file.68

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小寺玲央さん。
料理界のハーバードと名高い「カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ」で
西洋料理を学んだあと、京都の料亭で板前として腕を磨き、
釣具メーカーの海外営業職、専門商社の取締役勤務を経験する。
2015年春から、企業のデジタルマーケティングを専門とする
Pierry Software日本支店を京都の地に立ち上げた。

料理の世界から起業家へ。
異色のキャリアを持つ彼の生き方を知りたくて、京都のオフィスの戸をたたいた。
彼の挑戦に込められた思いとはいったい何なのだろうか?

☆☆☆☆☆

――板前をされていたと聞いて非常に驚いたのですが、
カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカへの進学を決めた理由は何でしたか。

小寺玲央さん(以下、小寺):将来グローバルな仕事をしたいと思い、
ボストン大学内の語学学校で1年間英語を学んでいたんです。
そのあいだに、ホスピタリティ系のキャリアに興味を持ち、
レストラン・ホテルを専門とするカリナリーインスティトュートオブアメリカに進学しました。
フランス料理をベースに、サービスや世界各国の調理法を学ぶ日々でした。

在学中に新しい文化に触れようとヨーロッパを旅して、
印象に残ったのは、フランス人もイタリア人も、自国の食材を愛し、
自国の料理に誇りを持っているということ。
そこで、自分自身が日本文化や地元京都の料理のことを
何も知らないということに気がついたんです。
新卒のときには地元京都にある料亭に板前として就職しました。

――板前としての日々はどうでしたか。

小寺:朝3時から仕込みを始めて夜中まで働く日もあり、
十代で板前の世界に入った子が途中で倒れてしまうような過酷な環境でした。
当時23歳だった自分は「もし自分がいなかったら仲間に迷惑をかけてしまう」という責任からか、逃げ出そうと思ったことはなかったですね。

ここでの学びは、仕事への姿勢の原点になっています。
「物事には段取りが必要」だと学んだのも、料亭でした。
お客様の特別な日の感動をピークに持っていくために
最高のタイミングで、料理をお出しできるようにするのが私たちの役割です。
そのためには「今の自分の仕事が、誰の、何のためにあるのか」を問い続けなくてはいけない。
また、日本料理の修行を通じて、日本文化を深く知れたのは大きな収穫でした。

――どんなに過酷な日々でも、「仲間のために」という思いが強くあったのですね。
板前を経験されて、日本文化への見方は変わりましたか。

小寺:日本料理は、他国の料理と比べて、心遣いの細かさが違います。
例えば、茶道をルーツに持つ懐石料理の世界では、
箸の先に食べ物がくっつかないように箸を湿らせておく「湿り箸」というおもてなしがあります。
これは「あなたが召し上がる直前まで箸のことも気にかけている」というメッセージなんです。
西欧だと、肉が傷んだら胡椒をかけるというふうに、「何かを加える」のが一般的ですが、
一方、日本料理だと、魚にさっと湯をかける「湯引き」によって、
臭みを取り、素材の美味しさを引き立てます。
こんにゃくも、灰汁(あく)抜きによって臭いをとります。
加えるのではなく引き算で「いいところを残す」という考え方です。
「炊き合わせ」も、それぞれの食材の持ち味を生かすために別々の鍋で煮ます。

この考え方を企業活動に取り入れると、
人間も「いいところ」を引き出してブラッシュアップすればいい。
「本質」を残して、シンプルを目指すという日本の発想は、アップルの商品など
他国にも影響を与えています。
この「本質」へのこだわりは、デジタルマーケティングの起点になっています。
私たちのサービスでも、「本当の顧客は誰なのか?」を見極めることが重要です。
最適な人に最適なメッセージを届けることでユーザーも企業も幸せになるという
本質的な問題解決を目指していきたいと思っています。

――日本料理の考え方ってこんなに奥深いのですね。
「本質を残す」という考えは、デジタルマーケティングにも通じるとは驚きです。
料理はもともと好きだったのですか。

小寺:幼少期にアメリカにいたことがあり、旅が好きで、
世界に出たいという思いがずっとありました。
なかでも料理を追究しようと決めたきっかけは、アメリカの料理があまり口に合わず
自分でつくったほうが美味しいと感じたこと。
「もっと良い味にするには?」と研究するプロセスが楽しくなってきたんです。
家族や友人も私のつくったものを美味しそうに食べてくれるのを見て、
料理を専門的に学んで、人を喜ばせたいという気持ちが強まりました。
食べるとなくなってしまう儚さがいいんですよね。
板前として経験を積んだあとは、グローバルに働くという当初の目標のため、
釣具メーカーの海外営業職へ転職し、その後、さらに商社へ転職しました。

――商社時代にビジネススクールでMBAをとろうと思った理由は何でしたか。

小寺:MBAに興味をもったのは、料亭で働いていたころ、
アメリカで起業した親戚に勧められたのがきっかけでした。
「職人であっても、自分の商品を広くお客様に届けるには、
経営手法を知っておかないとダメ」というのが印象的でした。
その後、海外の取引先のトップとも対談をする機会が多くなるなかで、
経営者の視点をもっと知りたいと思うようになったんです。
この頃には、いつか自分自身が経営者になりたいと思い始めていました。

――そこからPierry Software日本支店の立ち上げに携わろうと決めたのは
どんな経緯があったのでしょう。

小寺:学生時代からの知人である本社社長のジョシュ・ピアリが、
7年前カリフォルニアでPierry Softwareの前身となる会社を起業していました。
商社にいた私は、商談でジョシュのオフィスを訪問するたびに、
最初数名だった従業員が60名程度にまで増えて、活気が増していくのを目の当たりにし、
急成長の秘訣が気になって仕方なかった。
彼の事業内容を深く聞いていくうちに、デジタルマーケティングに興味を持ち始めました。
そして、彼らのハイレベルで丁寧なデジタルマーケティングの総合サービスを日本で提供すれば、多くの中小企業の悩みを解決できるはず。
初期導入のコストという障壁がこれまではありましたが、
Pierry Softwareは、顧客が利益を出してからコストが発生するため、
企業の導入の敷居を下げることができます。
こうした話をするうちに、日本進出を一緒に実現させようと意気投合し、今にいたります。

――彼らのサービスを日本で実現させる意義を強く感じられたのですね!
京都に拠点を置いたのはなぜですか。

小寺:ジョシュが学生時代に京都に留学していたことや、私が元々京都出身ということもあり、京都への思い入れはありますが、京都は地理的に日本の中心にあるので、
この地をベースに全国へサービス展開をしていきたいですね。

――小寺さんはどんな会社をつくっていきたいとお考えですか。

小寺:本社のDNAでもありますが、社員本社のDNAでもありますが、みんなが協力し、自由闊達に議論できるようなフラットな会社にしたいと思っています。
問題解決は一人ではできません。
日本はもちろん他のアジア諸国や東南アジアも視野に入れて、
デジタルマーケティングで課題解決を手伝える潜在顧客に
私たちのサービスを提供し、メッセージのインフラにしていきたいですね。

もう一つ大事なのは、「家族と過ごす時間」をちゃんと持てる社風を築いていくこと。
Pierry Softwareのサービスの価値もさることながら、
「家族を大切にする」という理念にも強く共感しているんです。
仕事の時間に成果を出し、それ以外は家族と過ごす時間でリフレッシュしてほしいというのが、ジョシュの考え方です。
現に夕方5時にはほとんどの社員が退社していました。
私は、ちょうど子どもが生まれたばかりなのですが、社員一人一人が、家族や友人といった身近な人たちを幸せにできる会社を目指していきたいですね。

――それは素晴らしい理念ですね。小寺さんがこれまで影響を受けた本は何ですか。

小寺:インパクトがあったのは『トータルリーダーシップ』という本です。
これまでリーダーは、組織を引っ張っていくイメージでしたが、
この本によると、真のリーダーは人生の四つの領域(仕事、家庭、コミュニティ、自分自身)をリードしていき、人生の豊かさを得ていくと言います。
私たちが目指す姿と非常に近いものを感じました。

――最後に、グローバルに活躍するために必要なマインドについて教えてください。

小寺:日本でも海外でも「関わる人をどこまで理解し尊重するか」がキーだと思います。
結局、どんな課題も「人」の問題に落ち着きます。
文化の違いや、自分の常識では理解できないことがあっても、
どれだけ相手に真摯に向き合えるかが重要です。
外国語が流暢でなくても、親身になってくれる人のほうが信頼を勝ち得ますから。

☆☆☆☆☆

海外で西洋料理の専門性を身につけ、板前として修業を積んでいたころから
経営者の道を進む現在まで、
彼の生き方を貫く「背骨」に、心を動かされずにいられなかった。

板前時代に発揮された「仲間想い」なところ、そして責任感の強さは、
家族や友人、そして社員を大事にするという姿勢にもつながっているのだろう。

目指す世界はグローバルな市場。
その一方で、目の前の相手と真摯に向き合い、課題を解決することによって
小さな信頼を確実に積み上げていく。
広い視野と、日本料理の心ともいえる「繊細な気配り」を
バランスよく持ち合わせている小寺さん。
彼の生き方こそ、「グローバル」と「ローカル」を掛け合わせた
「グローカル」を体現しているのではないだろうか。

アメリカの最先端のデジタルマーケティングの知見を、
日本の中小企業に、そしてアジア全体へと広めていく。
そんな彼の挑戦の旅を、今後もずっと見続けていきたい。
posted by メイリー at 21:41| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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