今年から弁護士として働いている葉野彩子さん。
京大法科大学院を卒業後、司法試験に合格。司法修習修了を経て今に至る。
彼女が弁護士を目指した理由、そしてどんな道のりを越えてこられたのか探っていきたい。
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ーー普段はどのようなお仕事に携わっていらっしゃるのですか。
葉野(敬称略):日々新しい種類の案件に携わる感じですね。
大きい弁護士事務所だと、企業の案件を扱うコーポレートグループ、
訴訟グループ…という風に分かれているところもありますが、
うちの事務所は「ジェネラリストになってからスペシャリストを目指す」という方針で、
若手のうちは一人の弁護士が色々な案件を担当します。
日々の相談業務では、企業からのご相談が7割程度を占めますが 、
離婚時の養育費の支払い、といった個人事件から遺産相続、
地主さんから依頼された建物収去土地明渡しなどを扱い、実に多彩です。
最近は夜12時を超えて働くこともあるので、
体系立ててじっくり勉強する時間がほしいなぁと思います。
学生時代に「じっくり勉強できる時間は今のうち」と言われましたが、
その言葉が身にしみています。
ーーそんなに遅くまで働かれているのですね!
日々の仕事で多忙な中、常に新たな案件の勉強も並行して進められているのですね。
葉野:平日に集中して取り組む分、土日はしっかり休んで
メリハリを大事にしようと思っています。
好きなバンドのライブに行って息抜きしたり。
仕事も勉強も「密度の濃い時間」を意識するようにしています。
ーーメリハリのある時間の使い方、ぜひ見習いたいと思います。
そもそも弁護士になろうと決めた理由を教えてください。
葉野:実は大学2回生のときに決めたんです。
学部選びのときは、何となく法学部か経済学部かなと迷い、
募集人数も多いし法学部にしたという感じです。
1回生の頃は、実家から大学まで片道2時間近くかけて通っていたので、
1時間目に間に合わせるのも大変で、なんとなく中途半端だなぁと思っていました。
そんなとき、法学部の友人に誘われて「薬害C型肝炎訴訟」の裁判を見に行きました。
大規模な訴訟なので弁護団が組まれており、
原告の方々を支援するPOCKYという団体の存在を知ったんです。
裁判の報告会や懇親会で、原告や弁護士の先生たちと話をし、
私もPOCKYに入って活動をすることに決めました。
そこで出会った先生たちの一生懸命な姿がカッコよくて、楽しそうで。
ーーどんなところが楽しそうに見えたのですか。
葉野:患者さんはそれぞれ「当時の感染の証拠となるカルテがない、
因果関係が認められない」といった課題を抱えていて、
先生方はその課題解決のために奔走されていました。
マスコミ対応など、世論にこの問題を訴えかけるために
「どうすれば原告の状況を伝えられるか」を常に考え続けていらして。
実費は持ち出しというケースもあるにもかかわらず。
だから原告の方々から非常に信頼されていました。
「社会正義を守る!」という明確な目標があったわけではありませんが
「法律という武器を使って依頼者のために考え、
それに誇りをもって働くというスタンスが魅力的に映り、
弁護士になりたいと決意したんです。
ーーその後、弁護士になるためにかなりの勉強をされたと思うのですが、
どんな日々を送られていましたか。
葉野:ひたすら勉強の日々です。
ちょうど司法試験が旧試験から新試験への移行時期になっていて、
旧試験では択一試験で1点たりなくて涙を飲むことになりました。
法科大学院に合格してからの2年間は勉強漬けでしたね。
授業は忙しいし、毎日のように夜10時、11時まで自分で勉強して。
その分、司法修習生になってからは時間的な余裕ができたので、
弁護士事務所の内定が決まったら、青春を取り戻すかのように
好きなことをし始める人も多いです。
ーーやはりそんなにも勉強が必要なのですね。
最近は弁護士の就職が一部では難しくなっているとお聞きしましたが、
実態はどうなのでしょう?
葉野:そうですね、新司法試験になって合格者は増えていきましたが、
若手の採用は厳しいところがあります。
もちろん司法制度改革の趣旨としては
企業内弁護士・自治体の弁護士のポストもあるんだから、
弁護士を増やしましょう、ということは掲げられていたんです。
ですが、そうしたポストは一般的な弁護士事務所に比べて、即戦力が求められます。
新人弁護士を育てる余力がある企業や自治体が少ないので。
まずは弁護士事務所の就職を目指す人が多いのですが、就職難な環境だといえます。
生え抜きの人をじっくり育てる環境が必要だと思っていますね。
ーー司法の世界において、大きな課題の一つなのですね。
そんな激戦をくぐり抜けてきた葉野さんは、
「勉強すること」自体好きなのではという印象をもったのですがどうでしょう。
葉野:興味のある内容だから勉強できるのかなと思います。
ただ、もっと語学をやっておけばよかったとつくづく感じるんです。
先輩の中には、留学経験があり、英語力を生かして外国人の関わる案件を
バリバリこなしている方がいます。
インドネシアの弁護士さんを接待するなんて場面もありますし。
普段から、英語の契約書を読んだり書いたりする必要も出てきます。
英語をがんばれば仕事の幅が広がると思い、勉強したいなぁと思ってはいますが
まったく着手できていません。
ーー法律以外にも興味のある分野はありますか。
葉野:色々な法律にふれていると、多種多様な産業に出合うので、
そこに興味がわいています。
例えばメーカーの特許の案件を担当したら、
モノづくりのプロの話を伺うことができたり。
「どうやってこの製品が出来上がったんだろう?」と考えるとワクワクします。
情熱をもって働いている方には興味がわきますし、
これまで知らなかった最先端の技術にふれることができるのは醍醐味ですね。
ーーそれは素敵ですね。葉野さんの向上心の高さはどこからくるのでしょう。
葉野:尊敬できる弁護士の先生の存在は大きいですね。
「この人と働きたい!」と思って今の事務所に決めましたし。
先生の仕事を見ていると、依頼主が10を求めてきたら、15を返すようなスタンスで
常に仕事をしているなぁと感じるんですね。
私も依頼主のニーズを汲み取る力、
そして「自分に相談してくれたからこそ」のプラスアルファの価値を提供する力を
身につけていきたいと強く思っています。
ーー今後の目標をお聞かせいただけますか。
葉野:目の前にある日々の仕事をすべて「蓄えていくこと」です。
処理するのではなく、向き合って依頼主に還元できるものを増やすこと。
そうすれば、類似した案件が出てきたら、
過去の引き出しを使えるようになると思うんです。
もちろんどの案件も一つひとつ違うので、得たものをどんどん蓄積し、
尊敬する先生方に近づきたいですね。
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彼女のインタビューを通じて伝わってきたのは
並大抵では培われることがないであろう、
膨大な努力に裏付けされた「真摯さ」である。
「こんな弁護士になりたい!」
尊敬できる人の存在が、弁護士としての勉強、日々の業務において
こんなにもモチベーションを高めるのかと驚くばかりだった。
一つ一つの案件に誠実に向き合い、
「もっと学びたい」という興味を見出し、知見を蓄積していく。
このプロセスは弁護士はもちろん、どんな仕事にも不可欠なのだと感じた。
今後、自分では解決できない大きな課題が押し寄せてきたとき、
彼女に相談しようという気持ちが自然と沸き起こってきた。