2013年08月12日

多様な個性の「起爆剤」となる薬の研究者 file.19

濱口裕子さん。
京都大学大学院薬学研究科を経て協和発酵キリン株式会社にて
研究職5年目を迎える。

ーー薬学部に興味をもったきっかけは何ですか。

濱口(敬称略):母親が関節リウマチを患っていて漢方薬を使用していたことから、
薬は小さい頃から身近な存在で、最初は漢方薬に興味をもったんです。
ただ、漢方薬ってこれまでの効用の経験をもとに処方されるもので
メカニズムが不明なとこもあって。
科学的に効果が検証された薬をつくりたいという気持ちが強くなりました。
高校は理数科で、化学や生物の授業がとても面白かったし、
「生体をミクロでとらえる」のが化学や物理としたら、「生体をマクロでとらえる」となると薬学部か農学部で学んでみたいなって。
個人塾が同じで、京大を目指していた子が農学部を目指していると聞いて、
「じゃあ私は薬学部に!」というのもありました。

ーー大学での授業はどうでしたか。

濱口:初めて学ぶものがいっぱいで、大変だけどとっても楽しかったですね。
薬って、比較的分子量の小さい化合物、タンパク質でできている抗体、
そして核酸と色々なフォーマットがあるんです。
いずれにしても、薬を還元して考えていけば生物学という包括的な枠の中に化学があって、
さらに原子レベルで考えるなら物理学の知識も必要になるんです。
物理は高校でもやらなかったので、面白さに気付くまでに至れなかったのが残念でした…。
私、持続性よりも初速の行動力があるらしくて、新しいものにはどんどん飛びついちゃう。
ダンスのバレエだけ3歳からずっと続けていたのが不思議なくらい(笑)。
なので、どの科目もおしなべて興味を持ってそれなりに勉強した、という感じでした。

ーー就職活動では製薬会社以外の道も考えておられましたか。

濱口:化粧品や食品メーカーの研究職も見ていました。
当時、日経新聞や日経ビジネスから気になる記事をスクラップしてたんですが、
多彩なフィールドで活躍している人を知り、研究職に拘らなくてもいいかなという思いもありました。
ローソンの新浪氏、京セラの稲盛氏、和民の渡邉氏、三井物産の槍田氏、たねやの山本氏、建築家の安藤忠雄氏、女性だとDeNAの南場氏、ゼロックスのバーンズ氏…
たくさんの魅力的な方々を勝手にスクラップしていました。今でも宝物です。
人とコミュニケーションを取る仕事も好きですし。

ーー濱口さんはコミュニケーションが得意という印象があるのですが、
昔からそうなのですか。

濱口:幼い頃から人見知りは全然しなかったですね。
本能的にだけでなくきちんと頭でも考えて、いろいろな人と仲良くやっていく力は、「数理の翼セミナー」での活動でかなり培われたと思います。
これは、数学や理科が大好きな参加者が全国から集い、寝食共にして約一週間を過ごす合宿形式のセミナーです。
数学や物理、化学、情報、生物分野など、科学界の著名な研究者の先生たちをお招きして講義いただいたり、参加者自身が「夜ゼミ」を開いて興味のある学問を共有、ディスカッションしたりします。
中には、学問が好きすぎて良くも悪くも変人扱いされているような、落ちこぼれならぬ「浮きこぼれ」の子たちがいます。
加えて、こういう子たちを繋げて起爆剤になるような子。
私は後者メンバーだと思いますが、とても刺激的な経験ができました。
勉強おたくの子は、自分とは違う専門分野の子とコミュニケーションを取るのが苦手なケースもあるので、
コミュニケーションの円滑油が、議論の活性化に必要なのでしょうね。

ーー「数理の翼」で出逢った仲間たちは、これまでの友人たちとは違いましたか。

濱口:そうですね。学校や塾で知り合った友人とは一線を画していました。
高校時の同級生よりはもちろん、京大の友人よりも変!
京大薬学部にくる子はどちらかというとマルチタレントで要領がよい子が多いのですが、
「数理の翼」にくる子は、好きな学問と心中するんだろうなって感じ(笑)
彼らはグループで研究するときも成果の取り合いなんて無縁で。
「挑むべきは人間ではなく、学問」という意識があるように見えます。
彼らと話していると発見がいっぱいです。
葉っぱが規則正しくまばらに生えているのを「数学的に美しい」と見とれたり、
山にピクニックに行ったら物理を極めている子が、逃げ水を見て、
なぜ逃げ水が見えるのかを物理法則と計算式を使って説明し始めたり。

ーーそんな刺激的な会話がちりばめられているのですね!
他にも自然科学にふれる活動に関わっていたのですか。

濱口:高校2年生のときに「サイエンスキャンプ」に参加したことがあります。
科学技術機構や研究現場を実際に見学することができ、初めて電子顕微鏡にさわったり。
あとはゲノム解読が脚光を浴びていた時期だったので、
シークエンサーという機械で遺伝配列を読むところを生で見たり。
そこで大切な出会いがありました。
微生物学の権威で、「整腸力」など腸内細菌についての著書も多い辨野先生という方なんですが、
先生のエネルギーに溢れたお人柄や研究内容に感動して、
それからずっと年賀状やメールのやりとりをしています。
「数理の翼」の運営スタッフをやったときに、先生をセミナー講師の一人にお呼びしました。
とても印象に残った言葉があって。
「研究者は社会からお金をいただいて研究しているから、学問の発展への貢献ももちろん大事だが、研究結果を社会に広く発信していくといった社会への還元も必要になるんだよ」と。
多忙極まるはずなのに、こうした先生は後進を育てる心の余裕をお持ちなんですよね。

ーーそんな素晴らしい先生との繋がりをずっと保っていらっしゃるのですね。
いつから科学が好きだったのですか。

濱口:小さい時からいつの間にか好きになってたんでしょうね。
小学低学年のとき、祖父に「プレゼント、何がほしい?」と聞かれて
「アンモナイトの化石がほしい!」と言ったみたいです(笑)
中学校になって実験が本格的に始まると炎色反応など色の変化が単純に面白かったところなどから化学が好きになりました。
科学に限らず好奇心旺盛でしたね。図鑑や物語の本が家にいっぱいあったことも大きかったと思います。
空を見上げるのが好きで星座早見盤を見ているとワクワクして。
星から関連してギリシャ神話に興味がわいたり。
生まれ育った滋賀県は史跡が多いので歴史の勉強も好きでした。
でも、私自身どこか現実的なところがあるので、
過去のことより「今役立つもの」への志向があって、
解明できていない部分が多いと感じた「生物」が一番好きになったのかなと。

ーー親御さんから受けた影響ってどんなものでしたか。

濱口:ほんとに自主性を大事にしてくれたなぁと思います。
親から「勉強しなさい」と言われたことは一度もなくて。自ら好きなことを学ぶのが普通というか。
大学受験では「合格のための勉強」という要素が強いので勉強に飽きたときがありましたが、
そのときですら、親は放任でしたね。
迫られてやる勉強は、テクニックなどに走りがちで、学びの本質から離れていく気がして、
それが嫌だったんです。
こんな風に自主的に行動するのは得意なのですが、大学時代から悩みがあって…。
やりたいことがいっぱいあるので予定を詰め込んだ結果、
やりたいことがやらなきゃいけないことに変わってしまうんです。
あと、自由な時間が多いと、やることの優先度をつけるのが苦手。
「これをやって何が得られるのか?」をつい考えてしまいます。
でも、そんな傾向も昨年結婚して和らいだかなぁ。
テレビを見てダラダラ過ごすなんて、独身時代ではありえなかったので(笑)

ーー結婚されて、時間の過ごし方に変化があったのですね。
結婚してよかったことって何ですか。

濱口:そうですね、一つは「自分でも知らなかった自分に気づかせてくれる」ところです。
夫は人間観察がすごいんです。
もう一つは「何もしなくても2人で過ごせる時間をもてる」こと。
一人でいると「何か意味のあることをやろう!」と予定を詰め込んでばたばたしがちですが、
ぼ〜っと安らぐ時間ももてた方がいいなと。
小学校の時叔母に紹介してもらった、フォレスト・カーターの「リトルトリー」という大好きな本があるのですが、「美味しいものは分け合うほど大きくなる」という言葉があり、それをまさに噛みしめていますね。
美味しいものを独り占めしたほうが、その場での量的な満足度は高いけれど、
大事な人と一緒に分け合うと、後になって「あのときの料理、美味しかったね」と共有できるので、経験としての満足度は高まるのだと感じています。

ーー素敵な考え方ですね。今後の夢を聞かせていただけますか。

濱口:薬をつくりたいというのが一番の夢ですね。
「人の役に立ちたい」という思いが根本にあるので。
薬は基礎研究から世に出るまでの過程が非常に長いですし、
研究の最初の段階では「本当に薬になるのか」も未知で、
最終的に薬ができる確率は、10万分の1と言われています。
いかに成功までの道のりが険しいか…。
薬ができるところまで見届けられないまま定年退職を迎える人もいます。
だからこそ、諦めずに夢を追いたいですね。
今は免疫分野に携わっているので免疫のアプローチを考えています。
個人的に興味を持っているのが腸内免疫。
腸をはじめとする消化管は体内でありながら体外ですよね。
なので、異物から体を守る仕組み、すなわち免疫が非常に発達しています。
また、腸には多種多様な菌が共生しています。

この生態環境そのものを、生きた人間から採取するのは不可能なので
フンを採取したり、マウスを使ったりして研究するんですね。
辨野先生が出されている「大便通」や「整腸力」という本を読んでも
腸管免疫は基礎研究の題材としてのみでなく、
ヒトの健康に関しても大きな可能性を秘めているとますます思っています。
少しでも夢に近づけるよう、今後も幅広く勉強と地道な実験をし続けていきたいと思っています。
☆☆☆☆☆

濱口さんはサークルの先輩でもあり、
いつも笑顔で、華があり、みんなから好かれていて、
それでいて夢を確実に現実に変えていく努力を惜しまない人という印象が常にあった。
違う業種ではあれど、偶然にも勤務地が同じということもあり、
社会人になってからの方が深くお話させていただく機会も多く、
会うたびに尊敬の念が強まっている。

実際にインタビューをさせていただいて、
彼女の「多様性を受け入れて、異なる個をうまくつなげていく力」の背景には、
「好奇心の強さ」と、自由にのびのびと行動してきた経験があるのだと感じた。
「数理の翼」でも、「変人扱いされるくらい優秀で強烈な個性をもった人」から素直に吸収し、
コーディネートしていく。
また、尊敬する師との出会いを、その場限りで終わらせずに継続させているのも、
彼女の人柄や研究熱心さ、物おじせず行動していく姿勢があるからなのではないだろうか。

「薬をつくりたい」という夢に向けて、
一歩ずつ着実に前へ進んでいく姿を、ずっと追っていきたいと思う。
posted by メイリー at 22:57| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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