2013年10月05日

真の教育改革を目指すコーディネーター file.26

中尾亨さん。
大学時代、塾のアルバイトで子どもの成長に関わる喜びを実感し、
塾の教室長として活躍する傍ら、独学で指導法を研究し続けた。
「日本ドリームプロジェクト」という
36,000人の人に夢を聞き、作文を書いてもらう活動をおこなっていく。
現在は、教師を目指す人たちを指導する傍ら、大学職員として
産学連携コーディネーターを仕事にする。
「公教育を変えたい」そんな思いをもった彼の行動力の源泉に迫りたい。

☆☆☆☆☆

ーー日本ドリームプロジェクトでは、どんな活動をなさっていたのですか。

中尾(敬称略):夢についての作文を書いてもらうことで、
「夢をもつことの大切さ」を伝えるという活動をしていました。
書くことにこだわったのは、夢を「表現しづらい社会」に対し、課題意識があったからです。
塾で働いているときに、勉強が苦手な子は自信をあまり持てていないなぁと感じて。
でも面談で彼らの声に耳を傾けていくと、「本当は成績を上げたい」と思っている子がほとんど。
ただ、自己肯定感を育てるきっかけがないんだなと思ったんです。
一緒に夢について考えてみよう!書いてみよう!と促すことで、
「夢なんてないよ」と言っていた子どもたちも、表現していく中で表情が明るくなってくるんです。
実際に、部活のスランプに陥っていた子が立ち直ったり、
不登校だった子が学校に通い始めたりという風に、
子どもたちの可能性の無限さを目の当たりにしました。
作文による夢教育を進める中で、講演やゲストティーチャーを毎日のように務め、
「公教育を根本から変えたい!」という全国各地の様々な先生方とお会いしたんですね。
そこでこんな問いが生まれました。
「こんなに教育を良くしたい人たちがいるのに、教育はなぜ変わらないのだろう?」と。
同時に、公教育の現場で先生方が抱える問題解決に関わりたいという思いが芽生えました。

ーー先生方が抱える問題とは例えばどんなものでしょう?

中尾:教員養成の授業では「教え方」や「クラス活動の手法」を教えないんですね。
例えば筆算や書道の指導において、本来はわかりやすい解説の「型」があります。
給食の配膳も、クラス全員が動くとぶつかるので、あえて係の人だけを動かすといったルールもあります。
ですが、大学の実習でも、教師になってからも、そういったことを教えてもらえる研修はまずありません。
会社なら新入社員研修やOJTがあるけれど、教師はいきなり一人前として扱われ、教壇に1人で立たなくてはいけない。
なので否応無しに「自己流」に走るしかなく、
良いノウハウを誰かが持っていても、それを教師間で共有する仕組みがないのです。
もちろん教師たちは「子どもたちを幸せにしたい」という強い思いをもって、学校教育の現場にやってきます。
ですが、新人の9割が授業崩壊を経験するという現実があります。
失意にある新人たちは、周囲のベテラン教師から「そこまで頑張らなくていいよ」と言われるわけです。
「教師ってこんなもんなんだ、自分の心身を守るためには仕方ない」と
挫折体験を受容してしまい、教育者としての向上心や自信を失っていく。
自信低下の問題は、先生たちも子どもたちも根本は同じなのです。

ーーなるほど。教員養成を目的にした「教育学生サークル ふたば」を始めたのは、
先生方が抱える問題を解決したいという思いがあるのでしょうか。

中尾:ふたばの活動については、理想の教育を実践できる力量ある教師が育ってくれれば、
30年、40年後には彼らが教育界で役職に就いて、教育を変えられるという長期的視点に立っています。
そして、失敗しても乗り越えて成功した体験のある人は、
他人の夢を本気で応援できる、そう信じているんです。
教師採用試験前の1ヵ月半は、毎日1時間睡眠で、教師を目指す学生たちに指導しました。
教師として巣立っていった、ふたばの卒業生の「その後」を聞くと、
学校文書をクラウドに置いて校務分掌を効率化させたり
保護者から感謝の手紙を20通くらい受け取ったりという風に、
信頼される優秀な教師に育っていっているなぁと感じます。

ーー睡眠1時間ですか。そこまで教員育成に熱意をもてるのはなぜなのでしょう。

中尾:僕自身、自信がないので、その裏返しかもしれません。
中高時代、人並みにスポーツも勉強もできるけれど1位になるものないなぁと思って。
誰とでも仲良くなれるけれど、親友はいない。
大学時代、教師を志していましたが、「何のために教育を学んでいるんだろう?」という気持ちがわいてきて、
採用試験も途中で辞退し、半年間、ひきこもりに近い生活をしていました。
周囲から「いつもリーダーだったあなたがそんな風になるのは、らしくないよ」と言われたけれど、
みんながやりたがらないからリーダーをやっていただけなのに…って。
殻に閉じこもっていました。

ーーそうだったのですね。そこからご自身の中にどんな変化が生まれてきたのですか。

中尾:でも、塾のアルバイトでやっとこそ居場所を見つけて、
人間はいつだって変われるんだと気付きました。
塾を卒業した生徒の保護者が半年ぶりにいらして、
「子どもが何事にも前向きに取り組むようになって本当によかった」と
わざわざ言いにいらしてくださったんです。
「自分の弱い部分と向き合って、それを認めてあげてほしい。その上で頑張れ」と
子どもたちに伝えてきたことが報われたなぁと。

ーーきっと目を見張る変化がそのお子さんにあったのでしょうね。
塾の教室長時代はコーチングをされたり、毎日1冊ビジネスの本を読まれたり、
多忙な中非常に研究をされていると知って驚きました。

中尾:たしかにかなり勉強しましたね〜。
全学年の検定教科書を買ってきて研究したし、授業案を書きまくった。
ビジネス書だけでなく、教育制度や教育哲学、心理学の本も読み漁りました。
コーチングも「子どもたちに夢をもってもらうには?」を考えた結果、武器になると思って取り入れました。
コーチングってこちらが誘導するのではなく、本人の口から出てきた言葉や思いを大事にして、
一緒に方向性を探していくんです。
本当に納得できる目標は、自分の心の奥底から出てきたものでなければ長続きしませんからね。
さっき言ったような自信のなさが常にあるからこそ、
「自分のためではなく人のためにしか頑張れない」という精神が
良くも悪くも僕の中にあるのでしょう。
自分の好奇心を満たすためだけの勉強って、あまり身が入らなくて…。

ーーコーチング、私も勉強したいなと思いました。
中尾さんは生徒、教師、教師の卵を「つなげる」イベントを数多く開いていますが、
人をつなげるときに心がけていることはありますか。

中尾:双方のやりたいことや強みを引き出して、欠けているパーツを補うという視点です。
その根底には、みんなが強みを持ち寄って、弱いところを埋めて
ワクワクする未来をつくりたいという思いがあります。
学校の先生と企業人が、深く語り合う機会をつくったときは、
自分が当たり前と思っていた価値観の軸をぶらすことで、多様性が生まれていくというのを
大事にしていました。
産学連携コーディネーターの仕事でも、大学という中立な立場を活かして、
様々な技術力をもった異業種の企業をつなげていき、
それぞれの強みを掛け合わせて
グローバルな課題、地域に根ざした課題を解決することが求められます。

ーー今後の夢を教えていただけますか。

中尾:開催第4回目を迎える「関西一おもろい授業」を、単発のイベントから「学校」にして
全国に広げていきたいですね。
学生と社会人が一緒に夢について語り合うイベントなのですが、
社会人は、路上ミュージシャンやラーメン屋、恋愛セラピストなどなど、多種多様です。
ただ語って終わりではなく、言語化した夢を現実に変えていく方法を
学生が継続的に社会人から学べて、社会人も新たな刺激を得て…という循環を目指しています。
そして、ふたばの活動もNPO法人化に向けて動いています。
自分が影響を与えられる人数は限られているけれど、志の高い教育のリーダーがたくさん輩出できればなぁと。
そうした取り組み一つ一つが「夢に向かって生きる力を育む公教育」へと実を結ぶはずだと信じています。

☆☆☆☆☆

ここまで利他精神で挑戦を続けられる人がいるとは…!
睡眠時間も惜しまず仕事と学生への指導と自己研鑽をおこなうこと。
これは並大抵の努力ではできないことだろう。
一番の感動はそこにあった。

「夢教育」、教育改革の旗手を育てる「ふたば」、「関西一おもろい授業」
大きな夢を提唱するだけでなく、公教育を本気で変えるにはどうしたらいいか?と
リアリスティックに戦略を立て、それを行動に移していく。
その背景には、明るくポジティブ!ではなく、
誰にも表現できないような心の底の葛藤やネガティブなものと
誠心誠意向き合ってきた方だからこその気概があるのだと思った。

多彩な生き方の社会人をインタビューしている身としては、
様々な経験をもつ社会人と学生を「つなぐ」活動は本当に意義深いものだと感じた。
私もいつか、教育とキャリアを融合させた分野で理想を追求したい。
そんな風に心を奮い立たせてくれるインタビューだった。
posted by メイリー at 22:31| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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