2013年11月10日

課題解決のためのテクノロジーを追究する未来の動物写真家 file.29

理工学部の4年生のKさん。
2014年4月からはコンサルタントとしての道を歩む。
電子部品の専門商社でアルバイトを行いつつ、環境NGOでもインターン経験を積み、
「科学技術と社会」のシナジーを探っている。
その一方、マダガスカルで野生の動物たちに会いにいくという、多彩な顔の持ち主である。
彼女のこの行動力を支えるものは何だろうか。

☆☆☆☆☆

ーー科学や環境問題への興味をもったきっかけは何でしたか。

K:小さい頃、近所の子が障害を持っていたことがきっかけで、
将来は科学者や医者になりたいと思っていました。
実は通っていた中学校では、珍しいことに卒業論文を書かされたんですね。
当時は発達障害に興味があったので、そういった障害を抱える方向けの教育施設へのインタビューや、研究機関への聞き取りに行きました。
そのときに感じたのは、彼らにとって障害はあくまで研究対象で、
発達障害を抱える方たちにとって科学技術をどう役に立たせていくか、という視点が足りないのではないかと感じたんです。
それがきっかけで、「科学技術を社会の課題解決にどう結びつけるか?」という問いをもち始め、科学技術全般を幅広く学べそう!ということで、理工学部の中でも幅広い事を学べそうな学科に入りました。

ーー中学生の頃に発達障害に関心をもっていたとは驚きです。
小さい頃から科学や動物への興味はあったのですか。

K:小さい頃から本が家にいっぱい並んでいて、
動物や恐竜の図鑑が特に好きでした。今でも買ってしまうくらい。
ハムスターやウサギを飼っていたのも影響していますね。

ーー大学時代はこれまで、どのような活動をされていたのですか?

K:大学1年のときに合成生物学の国際大会に参加したのが始まりです。
そこで一番興味をもったのは、場所や置かれている環境ごとに課題が様々であるという現状でした。
例えば、石油が海に流出した地域では、石油を分解する大腸菌のプロジェクトに挑戦していました。
そういった様々なプロジェクトに触れる中で、「問題解決のツールとしての技術」を学びたいと思いました。
また、海外のワークショップにも参加し、「Gene(遺伝子)」に関する技術について議論を行ったときにも衝撃を受けました。
「遺伝子診断って本当にやっていいの?」とか、
「妊娠中絶の賛否について」といったトピックでまさに喧々諤々の10日間でした。
印象的だったのが、ベトナムから来た学生の男女産み分けに対する意見。
「ベトナムでは男尊女卑が激しいので産み分けの技術を活用したい」と。
日本とは全然違う世界があるのだとショックでしたが、
別の方が「だからってテクノロジーで解決しようとするのではなく、
そもそも男子が優遇される社会自体にメスを入れる必要もあるのではないか」とおっしゃったんですね。
追い討ちをかけるような衝撃が走りました。
これまで自分は、技術で解決するか、制度を変えようとするかの二択しか考えず、両方のシナジーを取ろうとしなかったな、と。
そこで、技術と社会システムの両面を整備できる「架け橋」になりたいと思いました。

ーーそんな課題意識を持たれたのですね。
非常に多彩でスケールの大きな活動に参加されていますが、
こんなにも積極的な理由が気になります。

K:人から誘われて面白そうだったら、「とりあえずやってみよう」とぶっこんでしまいます(笑)
実は中学ではあまり体調がよくなくて、学校を休みがちだったんです。
だから、大学で初めて普通の生活を謳歌できる!という気持ちがあって。
もちろん高校時代は部活で大会などに出場したこともありましたし、
生徒会長として人前に立つことも多かったのですが、
私の性格は実は内向的で、昼休みはよく図書室で過ごしていました。
周りからはよく「アクティブだね」と言われるのですが、
本当の自分は違うのにと、ギャップが辛くなるときはありますね。

ーーそうだったのですね。
ビジネスコンテストもワークショップでの議論も、全部英語で行われているのですよね。

K:そうですね。実は母が海外に住んでいたことがあり、
彼女のメンタリティが日本人のそれとは少し違った感じだったので、
家で異文化にふれるところもあり、英語への抵抗はあまりなかったですね。
ですが、これまでに本格的な留学経験があるというわけではなく、
「世界の人たちと議論しなきゃいけない」という必要に迫られて英会話を勉強したという経緯があります。
独自の勉強法で効果があったのは、洋画を英語の字幕で見ることです。おススメですよ。

ーーマダガスカルに行かれたとお聞きしましたが、その経緯を教えていただけますか。

K:実はマダガスカル島がメインではなく、モーリシャスという国のインターンが一番の目的でした。
2年生の頃に大学に行きたくなくなってしまった時期があり、色々とやさぐれていました。
そんなとき、友達に何気なく「アフリカに動物を見にいこうかな」と言ったら、
「いいんじゃない」と後押ししてくれて、モーリシャスへのインターンが決まったんです。
なぜモーリシャスかというと、アフリカの中でも当時は成長率がNo.1で、
色々な技術が各国から入ってくる国というのが面白いと感じたから。
実は現地に着いたら大波乱が待っていました。
なんとインターン先がなかったんです!
でも、飛行機のチケットもすでに買っているし、せっかく来たのだからと、
現地のNGOに片っ端から電話をかけました。「私を働かせてください!」と。
そこで出会ったのがとある環境NGO。
「エクストリームな環境だけどいい?」って。
森の中で保全活動をおこなうのですが、保護している生き物を殺さないようにと、虫除けが使用禁止になっていて、蚊にかまれ続ける日々でした。かなり過酷でした…。
そこで1つ転機がありました。

ーーどんな転機があったのですか。

K:そこのNGOで働いていた女性に進路相談をしたんです。
「テクノロジーに関わりたい気持ちもあるが、動物も好きだし、どっちの道に進もうか」と。
すると彼女は「まず働いてみたら?」と言ってくれて。
私の学部では院に行く人がほとんどでしたが、
彼女の言葉にピンときて、「まずは働いてみよう!」と決意したんです。
帰国後は、生物多様性に重点をおいている環境NGOにてインターンとして働き始めました。
その一方、就職活動の一環で合同説明会にも参加しました。
1つだけ、他の企業とは少し雰囲気が違ったブースがあって。
そこの会社の「技術と経営をつなぐ」というビジョンに惹かれ、インターンに参加することになりました。
そして、結局ここが就職先になりました。
インターン後にすぐマレーシアに行き、環境保全活動に関するプログラムに参加した経験や、これまでの経験を面接で話したら面白がってくれて。
3回生の秋には早々と内定に。
元々は科学者が設立した会社ということで、自分の目指しているものと理念が共通していたということもあり、本当にここに入ることしか考えていませんでした。

ーーそんなにも早く決まったのですね。
環境NGOなどで働くという選択肢はなかったのですか。

K:卒業後すぐに環境保全の分野にいくのは時期尚早だと思ったんです。
実際に環境保全の現場に行き、その分野で働いている方と話してみて、インフラなどが現場で実際にどう使われるかまで踏み込んで、じっくり活動できないような印象を個人的に受けたので。
例えばマダガスカルには、日本のある組織がつくった道路があるのに、実は牛しか走っていないという…。
もし今すぐに環境保全分野に入ると、自分の場合は目の前の課題に追われてしまいそうだったので、
もっと長期的な視点からの課題解決に携わりたいと思い、そちらの道は選びませんでした。

ーーなるほど。研究室ではどのようなことをされているのですか。

K:実は、専門は”数理工学”という分野なんです。
自分の学科は少し変わっていて、2年生までは遺伝子組み換えもするし電子回路も作る。
全部好きでたまらないけれど、研究室は情報系を選びました。
最近は、”距離学習”というテーマで研究をしていて、さまざまなパターンで発生する地震の類似度(距離)を計算して予測を行うためのアルゴリズムを研究しています。
また、3年生がおわる3月頃に、ものづくりにも関わりたいと思い
Twitterで偶然見つけた、電子部品を販売する会社のアルバイト募集に応募しました。
そこでは回路をいじったり、英語のblog記事を翻訳したりしています。
それとは別に、この6月から7月にかけて、環境保全分野で働く人を対象とした、地理情報システムに関する海外研修にも行ってきました。
他国のNGOから来た方々と議論をしつつ、コンピュータ上でデータを整理・分析しながら地図をつくっていくのですが、1カ月半とても夢中になりました。

ーー研究でかなり多忙なはずなのに、国境を越えてものづくりや研修に参加しているって素晴らしいですね。
学生のうちにやってみたいことってありますか。

K:学生のうちにもう一度アフリカ大陸に行きたいですね。
あとは動物の撮り方を研究したいですね。
老後は動物写真家になりたくて。
今も研究が煮詰まったら、動物園に写真を撮りにいっているんですよ。
動物たちを写真に収めるには、忍耐との勝負になりますが…。
たまたま最近動物写真家の方と知り合いになったのですが、
「誰かが資格をくれるのではなく、なろうと思えばいつでもなれるんだよ」と言われ、
無理だと決めつけなくていいんだ!と思ったんです。
あとは環境NGOで働いていて思ったのが
「本来、環境を守ろうとか、世界を良くしていこうという意識は自発的に呼び起されてくる」ということ。
例えば「やせたシロクマの写真」はニュートラルなものだけど、
これを見た人が「なぜこんなにやせているんだろう?シロクマの生態系に異変が?」という風に
課題意識を自然と持ち始めていくのではないかと考えています。
発信のツールとして、写真は強力なツールだと思います。

ーー今後の夢を教えていただけますか。

K:まずはコンサルタントとしてしっかり働いて、いずれは大学院を目指したいです。
技術とマネジメントの両方の分野に関係するような分野で研究を深めたい。
その後の道は、院に行って何に夢中になるか次第だと思っています。

ーー最後に、チャンスをつかむためのコツを教えていただけますか。

K:ハードルを自分の中で作らないことでしょうか。
例えば海外のワークショップに参加したいとなったとき「お金がかかりそう」「英語で意見を言うなんて無理…」と思うかもしれません。
でも、10万円程度なら必死でアルバイトをすれば稼げそうだし、英語も勉強すればいい。
壁を作らないようにする、そして壁があっても壊すという前向きさが大事だと感じています。

☆☆☆☆☆

可能性の枠を決めずに、社会の課題解決のためのテクノロジーの可能性を追究する姿勢に
私は惚れ込んでしまった。
社会システムと科学技術の両面から現状を変えていこうという発想を大学時代にもてるのは、「面白そう!」というシグナルを察知して、果敢に未知の分野へ挑戦しているからだろう。

モーリシャスでインターン先がないという緊急事態に、
現地のNGOに片っ端から自分を雇ってほしいと交渉するという並々ならぬアグレッシブさ、
どんな環境に置かれても自分の道を切り開くフロンティア・スピリットをもつ彼女。
一方では、動物たちへの深い愛情や、課題を客観的に見抜く冷静さをもっている。

「自分の生き方に深い影響を及ぼした本は?」という問いに対し、
「人類大図鑑」と「Spirit of Wild」の2冊を挙げた。
多面性を貫く彼女の「探究心」が如実に表れていると感じざるを得ない。

これから、どんな風に壁を壊していくのか。
ずっと見守っていたいと思うインタビューだった。

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posted by メイリー at 19:55| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする