離島・過疎地域が抱える都市部との教育格差を解消し、
地域の子どもたちの自己実現を地域総がかりで支援する新しいモデル作り。
子供たち一人一人にあった「自立学習」を進め、教科・進路指導をおこなっている。
また、都市部の高校生が島の高校に島留学をすることにより、
島の子供たちも、都市の子供たちも、
多彩な価値観たちにふれることができるという活動も行われている。
こうした画期的な活動は注目を集め、現在全国から視察にくる人が後を絶たない。
京都出身で、都市部の教育業界に勤めていたSさん。
彼のある一言のおかげで、当時2年目の私は、「昼活」という、社内の先輩の仕事のコツを仲間とともにインタビューする活動を始めるに至ったという、エピソードもある。
そんな彼が離島のプロジェクトに参加した理由に迫っていきたい。
☆☆☆☆☆
ーー今の職場で働こうと思ったきっかけは何ですか。
S(敬称略):学校の様子を見学し、プロジェクトの活動にたいへん共感したからです。
この島に来て1年が経ちますが、働く前にセンター試験前の教室見学をしたら、
高校生たちが一生懸命に勉強をしていて。
推薦入試で受かった子もいるのに、センター試験に向けて熱心に勉強しているんです。
この子たちの学びの姿勢に心を打たれました。
ーーとても勉強意欲が高い生徒さんが多いのですね。
大学は島の外になると思うのですが、卒業後は島に帰ってくる方はどれくらいですか。
S:Uターン率は1〜3割でしょうか。
島に帰りたいけれど働き口が少ないのが現状です。
ですが、このプロジェクトでは、「仕事をつくりに帰ってくるような地域起業家を育てよう」
というのも目標にしています。
地域の将来を引っ張っていく人材育成というのも大事なミッションです。
ーー素晴らしいミッションですね!
本島から離れて暮らしていることで寂しさはありませんか。
S:もちろん寂しさを感じるときもありますが、新しい仲間もできました。
最近では自分と同じように20代の若者がIターンで島にやってきます。
中には島に永住することを決めて、結婚・子育てをしている人もいます。
かなり特殊な環境に飛び込むというのは、大きい決断なので、
島に来る人たちは、それぞれ独特の面白さがあります。
私は3年契約で来ているので、今後どうするかについても目下考え中ですね。
ーーなるほど。島にはコンビニもないとのことですが、来た当初、カルチャーショックはありましたか。
S:そうですね、店が閉まるのが早く、夜にスーパーに寄れないので困りました。
あとは基本的に冷凍の肉しか手に入らないので、食生活も変わりました。
でも生活サイクルに順応してきたので、
むしろ今は「なぜコンビニは24時間開いているんだろう?
そこまで便利じゃなくてもいいのに」と思い始めましたね。
あとは週に1日休日がありますが、過ごし方が変わりました。
前職で横浜にいたときは、勉強会を開いたりして多忙で、
常にいろいろな人に会いに行っていました。
島に来てからは、小説を読むようになり、ゆったり自分のために時間を使うことが増えました。
図書館が大充実しているので、1日中コーヒーを飲みながら読書という日もあります。
カフェと書店の機能がついているんですよ。
以前は分刻みで予定を入れていたのに、時間の感覚も変わりましたね。
ーーそれは大きな変化ですね。
学習センターでは親御さんと接する機会も多いと思いますが、
親御さんの様子について教えていただけますか。
S:どの親御さんも子供のことを心から大切に思っているんだなぁと日々感じています。
親も教室のスタッフも一丸となってお子さんの進路について考えるのですが、
大学受験のシステムに詳しくない親御さんも多いので、その不安を解消するために
相談にのることも多いですね。
高校3年生はほぼ毎日授業があるのですが、親御さんは送り迎えを欠かさずされています。
親と子で進路について意見が食い違うこともありますが、
少しでも話し合いができてお互いが納得できるように働きかけるのも、大事な仕事です。
ーーなるほど。島留学(都会の子が島で生活をする)は面白いシステムだなぁと思うのですが、
島にいる子供、島外からきた子供それぞれに、どんな変化が起こっていますか。
S:お互いがいい刺激を得ていますね。
都会の子は一般的に主張や物事を推し進めるが強いけれど、島の子は控えめで調整能力が高い。
高1で島に来た都会の子はカルチャーショックを受けるけれど、
3年間で違う価値観の人ともうまくやっていけるようになるんです。
都会だと苦手な人を避けて暮らせるけれど、田舎ではコミュニティーの中で
どの人とも上手く付き合うスキルが必要になります。
「田舎センス」と「都会センス」を両方持ち、
場面に応じて使い分けるのが大事だなぁと思っています。
ーー「田舎センス」と「都会センス」が掛け合わさると面白いことがいっぱい起こりそうですね!
今度はSさん自身のことをもう少しお聞かせください。
Sさんは常に新しい挑戦をされていますが、いつ頃からこんなに行動的になられたのですか?
S:23歳のときかなぁ。就職活動がターニングポイントでした。
それまでは京大のサークルや研究室の仲間と過ごすことがほとんどで、
どちらかというと内向的でしたが、たまたま東京の就活生に合って、彼らの活動ぶりに焦りました。
いかに自分の視野が狭かったか。友達の輪を広く持ちたいと思ったんです。
そこから、東京の学生と教育業界に関する勉強会を開くなど、動き始めました。
「目的意識をもった人たち」との出会いは、ある種衝撃的でしたね。
社会人になっても、オンライン・オフラインを駆使して朝活をしていました。
ーー就活がターニングポイントだったのですね。
Sさんは行動的であると同時に、内省的だなぁと感じているのですが、
いつから「深く考える習慣」を身につけていらしたのですか。
S:社会人2年目のころに本を読み始めたのがきっかけでしょうか。
それまでは本とは無縁だったのですが、ビジネス書をかなり読みました。
コーチングを勉強している友人が周囲に多くいたこともあり、コーチングの本は読みこみましたし、
一緒に勉強をしていると、各人の人生が変わっていくのが面白いんです。
彼らとは「今ぶつかっている壁にはどんな意義があると思う?」
といった本質的な問いかけをお互いにし合うので、自然と深く考える機会が増えました。
そして、今は今後やりたいことについて、自分と対話しているところです。
ーー自己とも他者とも深く対話できる機会だったのですね。
今後「これをやりたい!」というのはありますか?
S:実はまだ決まっていなくて。いつも自分起点というより人起点なんです。
自ら何かをやろうと思うというよりは、偶然、人に会って衝撃を受けて、ブレイクスルーが起き、新たな目標ができていく感じです。
行動力というより直観力が強いのかもしれません。隠岐にきたときもそうでした。
アイデンティティが定まらないという悩みもありますし、
「ゴールから逆算して動く」というコーチングの基本の考え方とはだいぶ違いますね。
でも、「キャリアドリフト(=偶然を柔軟に受け止めて、あえて流されてみる)」という考え方も必要かなと。
コーチング的な考えと、キャリアドリフト的な考え。
両者を使い分けできるといいかもしれませんね。
これからも色々な人に会って、次の進路も見つけていきたいなと思います。
☆☆☆☆☆
隠岐の島で教育に携わるという珍しいキャリアを積んでいるSさんからは、
「島にきた人しかわからない文化の違い」を体感し、
そこから数々の学びを得ていらっしゃるようだった。
「偶然の人との出会いからブレイクスルーが起こる」という言葉を聞き、
彼は「偶然のチャンス」を呼び込んで、ものにする力が強いのではと感じた。
キャリアカウンセリングの世界に
「プランドハプンスタンスセオリー(計画された偶発性理論)」というものがある。
予期せぬ偶然の出来事を、主体性や努力によって最大限に活用し、
キャリアを歩む力に発展させることができるという内容だが、
彼は、「予期せぬチャンス」意図的に生み出すような「積極的な行動」をとっている。
だからこそ更に良い偶然が舞い込む、というプラスのスパイラルができていく。
「コーチング」と「キャリアドリフト」
両者のメリットをうまく呼び込みながら、彼は常に変化を遂げていくことだろう。