2014年02月11日

言葉を越えたものを「感じ取る」プロインタビュアー file.36(前編)

田中嘉さん。
慶應義塾大学SFCに通う傍ら、
世界的企業の社長から芸能人、職人、研究者まで100人以上にインタビューするプロインタビュアーである。
講師として品川女子学院総合授業や高校の講演をおこない、
2013年には「聴き方大学」を開講。
約3週間、太平洋の海を航海しながら地球科学を解明するパイオニアたちを取材する
with earthプロジェクトをたちあげるなど、活躍の幅をどんどん広げている。
インタビューの記事から溢れ出る彼の「人を受容し、魅力を引き出す力の高さ」に感嘆し、
今の彼を形成した背景が知りたい一心で、インタビューを申し込んだ。

☆☆☆☆☆

ーーインタビューを始めたきっかけは、大学の友人の相談にのることが多く、
個々人の良いところをもっと引き出したいという思いが芽生えたからとお聴きしました。

田中(敬称略):たしかにそれはきっかけの一つだったと思いますが、
実のところ、これといったきっかけはないと言った方が正しいかもしれません。
話を聞くことは好きだったので、それが自然とインタビューという形につながっていったのかもしれません。
インタビューをしているうちに「インタビュー」という行為そのものにも関心をもち、
オーラルヒストリーの研究室に入ることにもつながりました。

ーーまずは子どもの頃のことについてお聞かせいただいてもいいですか。
小さい頃、どんな子どもだったのでしょう。

田中:色々なものに対して興味をもつ子だったと思います。
平泳ぎを覚える時も、蛙が水槽で泳いでいるのを見て覚えました。
クロールより先に平泳ぎを覚えたのは、クロールを泳ぐ生物がいなかったからでしょうね(笑)
「なんでこんな風に泳いでいるんだろう?」と観察する、そんな小学生でした。

ーー夢中になったものはありましたか。

田中:将棋と能を小学生の間ずっとやっていました。
お正月に能をテレビで見て「やりたい」と言ったら、
翌日親が能の教室のチラシをもってきてくれて通い始めることになったんです。
やりたいと言ったことは何でもやらせてくれる親でした。
勉強しなさいと言われたこともないですし、自分から自然と勉強していました。

ーー能の経験は今どんな風に生きていると思いますか。

田中:能って「気の世界」なんです。
ある男と女が出逢って互いを見て別れて…という、
現代のドラマなら10分で終わるようなシーンを2時間くらい引き延ばして演じるんです。
能が何百年も受け継がれ世界からも注目され続けている理由というと、
それを語れる立場では到底ないのですが、
一つ言うならばそれは、普遍的なテーマを扱い、
能楽師の「気」と観客の「気」が一致したときに起こる「何か」を、
能楽師も観客も求めているからだと思います。
以前インタビューさせていただいた能楽師の方が
「観客は何を想像してもよくて、能から自分の求める応えが返ってくる。」とおっしゃっていました。
言葉よりも一つ上の次元でのコミュニケーションがあるんです。

言葉にならない次元、これはインタビューにも通じてくると思います。
インタビューは質問と回答という言葉のやり取りに見えますが、
本質は、言葉を発していない今まさにその瞬間にも、
色々なコミュニケーションが存在しています。
言語にしばられず、言外にあるものを聴くことが大事だと思っていて、
それは能や将棋にも通じていると思っています。

ーー言葉にならない次元ですか…。
小学生の頃からイジメの仲介役で、友人や先生からも相談を受けていたと、
過去のインタビューにあったのですが、
その大人びているところに驚きました。
今も大人びていらっしゃいますが。

田中:大人びていますか(笑)
例えばA君とB君が喧嘩していたら、A君、B君それぞれの価値観を理解して、
それを相互が理解できるように「翻訳」する必要があって。
これってインタビューにもあてはまるんです。
例えば非常に専門的な話をする方の考えを、小学生のメディアで発信するなら
小学生が理解できて興味がもてるような言葉に変換することが大事になります。
異なる2者の言葉をどちらにも翻訳するのが好きなのかなぁと思います。

ーーそうした翻訳する力はどこで培われたのでしょうね。

田中:うーん、何でしょうね。幼稚園で受けた教育や環境の影響はありますかね。
分け隔てなく人と接することを教えられた。
正確にいえば、そういう精神を学ぶ環境があったということです。
「さくらんぼ保育園」というところなんですけれど、ちょっと特別な幼稚園だったんです。
人間を生物の進化の歴史からとらえ、その中での保育を考えるという思想に基づいていると理解しています。
ここでの考え方が、異なる価値観を受け入れるところにつながっていったのかなと。

ーー今の生き方や価値観に影響を与えた人や出来事について教えていただけますか。

田中:「これ」という出来事は浮かばず、日々影響を受けているという感じですね。
今こうして対話している瞬間も影響を受けています。
22歳の今、自分の変化スピードが身体に追いつかないくらい、色々なものに影響を受けていますね。
例えば3日前に起こした行動が、今は意味がないと思うこともある。
そう思うとインタビューって、その「今」を切り取ってしまうから、ある意味怖い。
インタビューさせていただいた人の全貌ではないけれど、ある瞬間のその人の一面を切り取っている。
だからこそインタビュアーの役割は大きいのだなと思います。

ーーインタビューでもそうした心構えでいらっしゃるのですか。

田中:そうですね、ちょうどこの2週間に5名インタビューしたのですが、
多くの方にお会いするときほど、一人一人と真剣に丁寧に向き合うことを心がけています。

ーー素晴らしいですね。田中さんって、「話しやすい」とよく言われませんか?
先ほどお話していた「翻訳能力の高さ」も関係があると思いますが。

田中:自然体でいるからでしょうか。
インタビューのスタイルでいうと、比較するのは恐縮ですが、
プロインタビュアー吉田豪さんのように「褒める」スタイルとは違うかもしれません。
相手が有名人かどうかでも接し方に区別はつけないですね。
これは吉田豪さんも一緒かもしれませんが。

ーー脱線するのですが、大事な親友っていますか?

田中:相談する人や仲良い人は何人かいますが、親友は…どうでしょう(笑)
でも、人間って完全には理解できないものだと思います。
逆に嫌いな人や苦手な人もいなくて。怒る場面もほとんどないので毎日楽しいですよ。

ーー嫌いな人がいないってすごいです。師匠として仰いでいる人はいますか?

田中:所属している研究室の清水唯一朗先生のことは尊敬しています。
人を理解しようという思いが強い方です。
飲みにもいくのですが、フラットな先生で、約20名のゼミなのですが、
先生は研究自体のアドバイスというより、ゼミ生一人一人の成長を考えたアドバイスをして下さいます。
2年間お世話になっているので、この先生の影響は受けていると思います。
専門家であり教育者ですね。

(後編に続く)
posted by メイリー at 23:45| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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