2014年05月13日

生徒一人一人の幸せのために惜しみない愛を注ぐ英語教師 file.41

大阪の公立中学校で10年以上英語を教えているベテラン教師である川端久士さん。
私が中学校3年生ときに1年間英語を教えていただいた恩師である。
11年ぶりに再会した先生の、どんな人も包み込むような優しい笑顔は変わっておらず、
中学時代にタイムスリップしたかのような懐かしさがこみ上げてきた。
先生から教えていただいたものは言葉にできないほど計り知れず、
英語の高校教師の免許を取ったのも先生の影響が大きかった。
私自身の「教育体験」を掘り起こしたときにも、先生の姿がはっきりと浮かんでくる。
「生徒と同じ目線に立って本気で向き合う」ことへの想いの強さがどこからくるのかを、
そして11年でどんな経験をされてきたのかを、じっくりお聴きしたいと思う。

☆☆☆☆☆

ーー英語の教師を目指されたきっかけを教えていただけますか。

川端(敬称略):高校時代、勉強についていけなくて数週間不登校になったことがありました。
友人たちがみんな優秀で、つい周囲と自分を比較して苦しんでいたのだと思います。
そんなとき、ある先生が高校の創立者が勧めてくださった本を私に届けてくれて、
自分のことを気にかけてくれる存在がいることに救われたんです。
同じように苦しんでいる生徒を一番近くで支えられるのは教師だと考え、
「英語なら一からでもマスターできる」という思いから、英語教師を目指すようになりました。
また、中学時代の担任の先生に憧れていたのも影響しているかもしれません。
叱るときはしっかり。でも大らかに生徒を包み込んでくれる。そんな素晴らしい先生でした。

ーーそんな経験がおありだったのですね。小中高ではどんな子どもだったのですか。

川端:おとなしくて引っ込み思案でしたね。
小学校の家庭訪問では先生から「空気みたいな子」と言われました。

ーー引っ込み思案なのはどうしてだったのでしょう。

川端:もしかしたら母親の教育方針が厳しかったことが影響しているかもしれません。
母親には両親がおらず、きちんとした子に育てなくてはという思いが非常に強い人で、
小さい頃には叩かれたこともあったのですが、
「あなたには私と同じ寂しい思いはさせないからね」と言われていて、
愛情ゆえの厳格さなのだということは子どもながらにわかっていました。

ーー愛情ゆえの行動だと汲み取ることができる思いやりをもったお子さんだったのですね。
当時印象に残った出来事は何かありますか。

川端:漢字テストで満点をとるとシールが貼られて、その紙を教室に貼りだされるんですが、
先生に褒められたのが嬉しかったのを今も覚えています。
当時好きだった女の子がとても字がきれいで、その子に字を褒められたのも非常に嬉しくて。
褒められて伸びる子だったんでしょうね(笑)
親も「勉強しなさい」とは言わなかったので、マイペースにやっていたと思います。

ーー褒められると俄然やる気が出るタイプだったのですね。
当時、夢中になっていたものはありますか。

川端:体育が好きで、高学年から剣道とバスケを始めて、中学ではバスケの練習に明け暮れていました。
マイケル・ジョーダンの全盛期で、「彼のようにダンクシュートをカッコよくきめたい」という強い憧れがありました。
ですが高校でもバスケ部に入ったものの、数週間で退部することになったんです。
勉強量が多い学校で、これは部活と両立できないなと。
周囲と自分を比較しがちだったのですが、先ほど話した契機により英語教師を目指し始めて、
高3の夏前に「人に勝ったかどうかではなく、昨日の自分に勝ったかどうかが大事」だと考え方が変わってきたんです。

ーーそんな変化がどうして高3の夏前に…?

川端:そうですね…。学校をやめようと思っていることや自分の心の中にあった葛藤を、
初めて親に打ち明けた時期でした。
そしたら「学校をやめてもいいよ。あなたの人生だし、あなたがどの道を選んでも100%信頼しているから。」という言葉をもらって。
自分の味方がこんなに身近にいる。そう気づいてからパワーが出て、
世界史の教科書を一から読み直して、センター試験の勉強に本気で取り組みました。
母校のある有名な先輩が「人並み外れた行動力と集中力があればどんな道でも切り開ける」という言葉を残していたと、
当時を知る先生から聞き、「自分も集中力があるはず」と思い込んで勉強したんです。
その結果、志望する中学英語教員養成課程の大学に合格しました。

ーー親御さんのお言葉に私も感激してしまいました。
大学生活ではどんなことに取り組んでおられたのですか。

川端:牧口常三郎の教育学を学んでいました。
彼の書物を読む中で「教育の目的は子どもが幸福になること」という印象的な言葉に出逢いました。
僕にとっての「幸福」とは「子どもがどんな状況でも負けないこと」だという考えに至っています。
勝たなくてもいいから負けないこと。
また、家庭教師や塾講師のアルバイト、教育実習を通じて、
子どもたちと接するのはやっぱり楽しい、子どもたちの可能性にもっとふれたいという思いが強まりました。
ただ、大学卒業時はちょうど教師が飽和していて、教員の採用枠が非常に狭くて。
大阪の家庭科の中学教諭は倍率200倍というときもありました。
採用試験は5回目に受かったのですが、それまでの間は採用試験の勉強時間を確保するために書店で働いたり、
電機メーカーでランプの試作品をつくったりフリーターの時期もありました。
このときの経験は、人との接し方を学んだ時期でもあり、教師の仕事にも活きていると思います。
試験に受かる最後の2年は講師として中学の授業をもっていたので、
生徒一人一人と直接向き合えることが本当に嬉しかったのを覚えています。
思春期真っ盛りで、反抗的な子や対応に戸惑う子もいますが、教師をやっていて嫌だと思ったことはないですね。

ーーそれはすごいです…。どうして嫌だと思わずにいられるのでしょうか。

川端:問題を抱えた生徒であっても、その裏にはなかなか打ち明けられない苦しみがあるだろうから、
何とかして取り除きたいという気持ちが湧いてくるんです。
生徒には無限の可能性があるはずなのに、教師が見捨てたら終わりじゃないかって。
教師は「教育の最大環境」だと思っていますし、
親以外でその子のことを信じ抜く「最後の砦」でもあると考えています。
自分が問題を解決してあげることはできなくても、寄り添って一緒に考えていくことはできるのだと。
もちろん、なかなか心を開いてくれず荒れている子もいました。
それでも、僕の中には「この子たちのことを諦めたらあかん」という思いがずっとあり、
そうした生徒たちとは、一対一で向き合う時間を多く取りました。
少しでも心を開いてもらうには、まずは自分が心を開いて、相手に事情を聴くように心がけているんです。
そうしたら、少しは思いが伝わったのか、「先生にだったら話せる」という言葉をもらったこともあります。

ーーまさに生徒さんたちにとっての最後の砦なのですね。
教師をされてきて、当初のイメージと現実のギャップはありましたか。

川端:そうですね…思っていた以上に先生たちは苦労しているなぁとは思います。
生徒に対しても、保護者や地域に対しても。
授業が終わっても教材研究よりも別の業務のウェイトがどうしても高くなりがちですね。
一番ウェイトが大きいのは生徒指導。
例えば、中学3年生の担任をしていると、入試に向けて一人一人の生徒にどう接するのか、
どの学校を薦めるのか、もし志望校に受からなかったときどうするのか…と毎日議論をします。
教師の中でも、教育スタイルや教育観は様々なので意見が食い違うこともありますが、
「子どもたちのために何とかしたい!」という根っこの部分はみんな同じ。
だから必ず分かり合える、協力し合えると信じることが大事だと思っています。
あとは、子どもが生まれてから、生徒の見方が変わりましたね。
それぞれの生徒の親御さん目線で考えることが増え、生徒たちの可愛さが倍増しています。

ーー教師をやっていてよかったと一番思うのはどんな瞬間ですか。

川端:教え子が卒業してから「今はこんな風にがんばっているよ」と報告をしてくれたときや、
実際に彼らが立派に働いている姿を見たときは、たまらなく嬉しいですね。
教師の仕事は結果がすぐには目に見えにくいので、
後々生徒たちの幸せな様子を知ることが大きな喜びになります。
あとは、生徒の相談にのって、「先生に話したら気持ちが楽になった」と言われたときも純粋に嬉しいですね。

ーー今後目指したいこと、将来の目標を教えていただけますか。

川端:若い先生たちの教育にも色々な形で関わっていきたいと思っています。
教師になりたての時期には、現場と理想のギャップで苦しんでいる先生や、
生徒たちに真剣に向き合うことがまだピンときていない先生もいると思うので、
「教育の目的とは何なのか」、「なぜ子どもたちと関わっているのか」などの問いを投げかけて、
一緒にじっくりと考えていきたいと思っています。
そして、生徒に近い立場に立てるという若い先生ならではのよさも尊重したいという気持ちがあります。
ベテランになればなるほど、子どもと同じ目線になるのが難しくなるので、
これまで以上に子どもに寄り添うことを意識していきたいですね。

☆☆☆☆☆

教師になるために生まれてきたのではないかと思うほど、
子どもたちに惜しみない愛を注ぐ先生の姿に、何度も胸がいっぱいになった。
生徒の等身大の姿を受け止めたい。
そんな想いがインタビューの端々でひしひしと伝わってくる。

問題児と一括りにされてしまいがちな生徒に対しても
「なにか事情があるのではないか?」と考え、その子の発するメッセージに耳を傾けていく。
先生がいたことで、心が救われ勇気を得た生徒はきっと多いのではないだろうか。

こんなにも親身になれるのは、
学生時代に親御さんや学校の先生に支えられていることを実感し、
葛藤を乗り越えていった経験があるからこそではないかと思った。
「子どもがどんな環境に置かれても負けないこと」を目指すという彼の教育哲学の深さや
オープンに話して下さったゆるぎない信念と誠意、謙虚さにふれて、
尊敬の念が強まるばかりである。

私がお世話になっていた当時、先生は26歳で、今ちょうど私はその年を迎えている。
先生のように誠心誠意、人と向き合えているか振り返らずにはいられない。
先生のように熱い想いを瞳に宿し、日々を丁寧に過ごせているだろうか?
そう問わずにはいられない。

インタビュアーという立場を離れて最後に一言伝えたいメッセージがある。
「川端先生の生徒になれて、本当に本当によかった。」

posted by メイリー at 23:49| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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