2014年07月06日

若者に光を照らしていく知の伝道師 file.45(中編)

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☆出口さんのインタビュー前編はこちら

ーー大学生の頃や、日本生命に入られた若手社会人の頃に
影響を受けた人や体験はありますか。

出口:「この人や本に多大な影響を受けた」というのは、
実は世の中にはあまりないのではないかと思っています。
恋愛でも、出会ってすぐに雷に打たれたように相手を好きになることより、
付き合ううちに良さがわかって「何となく合うかも」ということが多いでしょう?
様々な本や人から学んで、いつの間にか自分の血肉になっている、そんな感じですね。
あえて挙げるなら、京大では高坂正堯(こうさか まさたか)先生と、
社会人になってからお会いした神田秀樹先生です。
高坂先生は、マッキンダーの地政学をはじめとして、学問の面白さに目を見開かせてくれた先生。
次の言葉が、本との向き合い方を教えてくださいました。
「古典を読んで分からなければ、自分がアホやと思いなさい。
現代に生きている人が書いた本を読んで分からなければ、著者がアホやと思いなさい。
読むだけ時間の無駄です。」
神田先生はお酒の席でも理路整然と話されるし、その言葉が丸々、本にできてしまうくらい
「こんなに頭のいい人がおられるなんて…!」と正直驚きましたね。

僕は本に影響されやすいので、社会人になってから尊敬する人はそう多くはないですね。
クビライ・カアン(フビライ・ハン)や林則徐を上回る大物はそうそういないですからね。
「尊敬する人物」というとクビライが真っ先に頭に浮かびます。
もちろん、存命の人の中でも、稲盛和夫さんや永守重信さんのような名経営者はたくさんおられると思いますが、
まだ直接お会いしたことはないので、彼らから学ぶには彼らの本を読まなくてはいけない。
となると、クビライなど歴史上の人物の本から学ぶのと、何ら変わりはないと思いませんか。
今、存命かどうかは関係がない。

ーーなるほど…。その考え方に今、出合えたことを嬉しく思います。
では、出口さんの教育観をお聞かせいただいてもいいですか。

出口:教育の目的は、物理学者の山本義隆さんの次の言葉に凝縮されています。
「自分の頭で考えて、自分の言葉で自分の意見を述べられる人間をつくること」だと。
これが教育の最大の目的だと思います。
あとは実社会を生き抜く上で必要な「生きる武器」を与えること。
お金とは何か、選挙、税金の仕組み、年金、結婚のことなど、リアリズムに基づく知識です。
例えば北欧では選挙について次のように教えると聞いたことがあります。
「選挙では必ず事前に当落予想が出る。その当落予想を見、その候補者に通ってほしいなら、
その人に票を投じる、白票を投じる、棄権する、の3つの方法がある。
一方、その候補者に通ってほしくないのなら、別の候補者の名前を書くしかない。」と。
考えれば当然の真理なのですが、こうした当たり前のことを
体系的かつ具体的に子どもたちに伝えられる人は、
日本では限られているように思います。
「年金制度が破綻する」というのもロジックで考えれば明らかに間違っているのに、まことしやかに語られている。近代国家では国以上に安全な金融機関は存在し得ないことは、とうの昔に経済学者が証明しきっている。
正しいロジックを学校教育で教わらないまま大人になっている人が多いからでしょう。

ーー考える人間を育て、リアリズムを教える教育。
世界ではこうした教育が大事だという機運がある中、
日本ではまだまだ浸透していない原因は何だとお考えですか。

出口:大人たちの意識が変わっていないことです。
高度成長期のキャッチアップ型モデルのもとでは、
野口 悠紀雄さんの『1940年体制』という書に記された通りですが、
「上に言われたとおりにやればいい」という意識が広まっていた。
その意識が現在も残っているのです。
まるで慣性の法則のように。
日本はガラパゴス的な考え方から抜け出ていない。
モデルなき現代では、政府の成長戦略にしても、商売の経験がある人が一緒になって考えていかないと、経済の実情から乖離してしまうのに、
それを正しく指摘できる人はほとんどいないのが日本の現状です。

ーー教育の課題を解決するために、日本はどんな行動を起こさねばならないのでしょうか。

出口:至極簡単です。会社の新卒採用の仕組みを変えればいいのです。
「いい就職をしたいから、いい大学に入りたい」
そう考える学生が多いのが現実でしょう。
採用の評価の主軸に、在籍していた学校での成績がよかったかどうかを置くのです。
極論すれば、政府は、成績表の順に採用する企業の法人税を減額するなどの措置をとればいい。
そうすれば学生は大学に入ってからも必死で勉強するでしょう。
他の先進国では、「なぜこの学校を選び、何を学んだか、成績はどうか」を問うのが普通。
良い成績を収めた人は、他のことでも成功する蓋然性が高いのです。
面接で学生に対し、部活やアルバイトの経験ばかりを尋ねるのは、わが国ぐらいのものではないでしょうか。

ーーそんな現状で、教育業界が担うべき役割は何だとお考えですか。

出口:教育に限らず日本は世界から学ぶ姿勢をもっと大事にしなくてはなりません。
岩倉使節団が明治維新を成功に導いたように。
世界の教育の成功事例を伝播していくことは、教育業界が担う重要な役割だと思いますよ。
無知ほど悲しいものはない。
知識や情報がないと良いアイディアは浮かんでこないですからね。

ーー世界の教育の事例をもっと学んで、広げていきたいと思いました。
子育ての問題についてもお聴かせください。
子育ての根っこにある課題は何だと思っておられますか。

出口:人間は動物だという視点は、子育てでも教育でもとても大事です。
ホモサピエンスは、定住生活を営む前に、移動生活を長い間おくっていた。
生後1年ぐらいは母親が子どもの面倒を見るとしても、
子育ては本来、群れ全体、つまり社会全体で行うものだった。
集団保育は、人間の歴史を見ても理にかなっているのです。
人間は集団の中でじゃれ合い、社会の掟を学び取っていく生き物なのですから。
なので「3歳児神話」は動物としての人間の摂理に反していることがわかります。
育児ノイローゼが問題になるのも、
生物学的には「ありえないこと」をやっているからではないでしょうか。
根拠なき精神論を、育児の世界から取り除かないといけないですよね。

人間は5歳ないし10歳ぐらいまでは未熟児状態という、動物界では珍しい存在。
その間に親が「守っていること」を子どもに伝える必要があります。
となると「5歳ないし10歳頃までは親が子どもをハグする時間を一日短時間でいいから取ることで、
『私が守ってあげる』という感覚を子どもは受け取ることができる」というのは、
科学的根拠のある正しい方法だと推察できますね。
posted by メイリー at 16:34| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする