ーーマスメディアへの疑問ですか。
西尾:メディア本来の役割は、社会をありのままに捉えて表現すること。
そこで市民の目線に立った「漢方型メディア」という構想がわきました。
「漢方型」メディアとは、社会の問題に直接切り込む「手術(西洋医学)型」メディアに対して、
地域・社会の免疫力(人の前向きな思いや行動)を引き出して元気にする「漢方(東洋医学)型」メディアを意味します。
本来人に備わっている免疫や自然治癒力を高めるイメージですね。
インタビューで前向きに頑張る人の良さを引き出し、見える化することで、
社会を人体に例えると、前向きなパワーが社会全体にじわじわ効いてくるんじゃないかって。
ーーこの発想力がどこから湧いてくるのか気になります。
ご自身の考え方や生き方に影響を与えた人といえば、誰を思い出しますか。
西尾:祖父の影響はかなりあると思います。
自然染色の第一人者として古代・平安時代の染色技術の復元や宝物の鑑定などをおこなってきた、研究者肌の人でしたね。
一番印象に残っている言葉にこんなものがあるんです。
「競争で一位になるには、『よーい、ドン!』ってなったら人が走りだすのと反対方向に走ることだ。
他の人と同じことをやっても仕方がない」と。
自分だけの道を極めるという気概をもって、自然染色という日本文化の世界一を目指していたのでしょうね。
変化の激しい時代で生き残るには、常に時代の流れを読みつつ、
新しいことに挑戦しないといけない。
彼の生き様は、そういうシビアな現実も教えてくれた。
「人とは違う道を行く」という考えは、僕自身にも染み付いています。
一つの道を突き詰めた人が身近にいたのは恵まれていましたし、自分の原点だと言えます。
ーーきっと現在も独自性やご自身の強みを活かすことを大事にされているのでしょうね。
西尾:インタビューも自分のスタイルを大事にしています。
ポイントにしているのは相手に「内省」を促すこと。
あえてふわっとした問いを投げかけて、相手に考えてもらうんです。
その人の「現在・過去・未来」という3つの普遍的な問いを投げかけるのですが、
本当は場の空気や聞き手の表情、相槌などで、
相手が自発的に話したいことを話してくれるのが究極のインタビューやなぁと思います。
聴き綴りはコーチング、カウンセリングなど色々な要素が絡み合ったもの。
相手に対し、気付きや主体性を引き出す機会になれば非常に嬉しいですね。
僕自身は、デコボコ(強みと弱み)が激しいのですが、
インタビューによって相手が自分らしさを表に出せるようにお手伝いできるのは、僕の強みなんだろうなぁと思っています。
ーーハローライフのトークイベント「仕事ストーリー」の動画を拝見したとき、
発達障害(ADHD)と「生きづらさ」への葛藤についてふれておられましたが、
もう少し詳しくお聴きしてもいいですか。
西尾:そうですね…今もずっともがき続けている感じですかね。
根っこの性格は几帳面で、色々気になってしまうのに、事務作業が非常に苦手で、
そのギャップに苦しむことも少なくありません。
最初の就職先でも、自分よりアルバイトの学生の方が段取りが良くて
葛藤や屈辱を感じたこともありました。
「なんで僕にはできひんのやろ?」と。
ですが、自分のデコボコを理解してくれる人や、弱みを補ってくれる人はいるんですよね。
大学院生のとき選挙ボランティアのリーダーをしていたとき
副リーダーに「西尾さんは団体の学生に楽しんでもらうことに専念してくださいね。」
と言われたことがあって。
僕の得意分野を見てくれていた副リーダーのおかげで、学生を集め、意欲を高めるという点に特化できた。
研究者図鑑のインタビューを指示した上司は
「段取りは苦手だけどコミュニケーション力や行動力は強みだ」と見抜き、
僕の強みが活かせる仕事を振ってくれたのだと思います。
30歳になるまでは実務への苦手意識との葛藤が強かったですし、今も残ってはいますが、
自分の強みやできることを認めてくれる環境を大事にしよう!と思えるようになりましたね。
「○○といえば西尾」と思ってもらえるものを、これからどれだけ作っていくかだと思います。
それと同時に、強みも弱みも含めた自分を丸ごと受け入れてくれる存在が
いかに大切かを日々実感しています。

ーーデコボコを受け入れてくれる存在に恵まれていらしたんですね。
この4月から始められた新しい仕事の内容も気になります。
西尾:京都府の協働コーディネーターとして、府内各地の様々な活動をされている方々と、
センターに来られた方々を繋ぐ支援をしています。
異なるコミュニティーに属していても、根本の共通項がある人同士をつなげていく。
「きっとこの人とあの人がつながれば化学反応が起きるだろう」と考えながら。
まさにインタビューで知り合った人たちが「つながる」仕組みづくりに携わっているといえます。
ーー「聴き綴り」と「聴き綴り士」の普及をミッションに掲げておられましたが、
今後挑戦したいことを教えてください。
西尾:一つはインタビューによる「漢方型メディア」の構築です。
実は「がんばってはる人★図鑑」を始めて、「聴き綴り」という言葉へのこだわりが薄れ、
インタビューという言葉を使っていってもいいのではないかという思いが芽生えています。
以前は、インタビューというと少し軽い印象があり、
趣味のようにとらえられるようで敬遠していました。
ですが、「現場で人の真の姿や良さを、人の文脈を通じて明らかにしていく手法」としてのインタビューに
可能性を感じているので、
多くの人に漢方型メディアを通じて、
根っこの部分で共感・協力できる関係づくりにつなげていきたいですね。
二つ目の挑戦は、「人版のAmazonをつくる」こと。
興味ある分野のワードを入れると、それに関わる人が検索でき、
さらに関連した人の情報(インタビュー動画など)が出てくるような、人材のデータベースです。
Amazonや人物検索サービス「SPYSEE」にも似たサイトですが、
「多種多様な分野でがんばっている人に出会いたい人はこのサイトを!」と言えるような場を提供したいです。
☆☆☆☆☆
「研究者の頭の中を探れば、人類の自然界(宇宙)に到達できる」
「人版のAmazonを作りたい」
インタビュー中、彼の構想力の斬新さに、何度驚かされたことだろう。
彼自身が発する言葉の一つ一つに込められた情熱は
じんわり効いてくる漢方のように、私の心に染み渡っていった。
人の良さを引き出し発信する、合う人同士をつなげていく。
自分の強み・独自性を極めていく中での葛藤と心意気両方に
私は心を打たれずにいられなかった。
デコボコを丸ごと受け入れて、強みを発揮できるようなサポーターたちは、
西尾さんの優しいお人柄や、彼の生き方の「芯」に感銘し、引き寄せられるのだろう。
彼の活動や生き方自体が、「ありのままの自分で勝負すればいいんだ!」と、
道に悩む人たちを救っていくのではないだろうか。
インタビューライターを目指す身として、
彼が目指す世界観に共鳴せずにはいられなかった。
少しでも役立てることがあるように、今後もインタビューの道をしっかりと進んでいこう。
そんな勇気をいただいた。