2014年10月27日

静岡の大学の文化・魅力を掘り起こし発信する編集者 file.55

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静岡県の大学で「学びたい!」を全国津々浦々の若者の常識にしよう。
そんな情熱を込めて大学生向けの情報誌『静岡時代』や静岡県庁と
静岡県の大学生による県公式SNS「静岡未来」などを企画・運営するNPO法人静岡時代
2005年に静岡県の大学生が立ち上げてから、今年で9年目。
少子化、グローバル化が進み、日本中から大学が消えていくなかで、
「静岡県の大学とはなにか?」「なぜ私たちは静岡県で学ぶのか」、
大学生自身の手で静岡独自の文化を掘り起こそうと日々、活動している。

最近は他府県の大学生からも
「もう少し早く知っていたら、静岡県の大学に進学したかった」といった声が届くなど、
確実に静岡県内いや全国にプレゼンスを高めていきつつある「静岡時代」。
ホームページから溢れだすバイタリティーの背景が知りたくて、
静岡市の編集部に見学へ。
なんとそこは、静岡県の大学生19名(2014年9月現在)と専任スタッフから成る少数精鋭の編集部だった。

学生時代から編集に参加し、卒業後である今も副代表として活躍されている
服部由実さんにお話を伺った。

☆☆☆☆☆

――『静岡時代』について教えてください。

服部由実さん(以下敬称略):「静岡時代」は、静岡県の大学生がつくる
静岡県の大学社会最大の学生メディアです。
毎号一万部、静岡県内の全ての大学(浜松医大をのぞく)で配布している雑誌『静岡時代』や
静岡県庁と静岡県の大学生が共同運営している県公式SNS「静岡未来」、
主に高校生へ向けて静岡県の大学生の学びのいまを伝える
静岡時代のWEB版「シズオカガクセイ的新聞」の企画・制作を行っています。
これらのメディア制作を起点に、県内大学生全体の専門知を集めて地域の社会課題に取り組み、
その成果によって、静岡県のプレゼンスを向上させ、
静岡県を次世代の若者が憧れるかっこいい場所にしていこう、という学生発のNPO法人です。  

2013年、静岡県は人口転出者数が全国ワースト2位でした。
静岡時代が行った大学生意識調査でも、
静岡県の大学生であることにコンプレックスを感じる大学生は6割を超えます。
私自身も、学生時代「なぜこの大学で学んでいるのか」を
自信もって言葉にすることができなかったんです。
これは静岡県の大学生に限った話ではないと思います。
大学の友人にも先生にも恵まれていて学生生活は楽しい、でもそれでも足りなかった。
よく「静岡の大学は自然がいっぱいなところが良い」という学生はいますが、
それって「この大学ならでは」ではないですよね。
就活中に知り合った東京の有名大学の人たちに、「どこの大学?」と聞かれたときも、
大学名を言うのに躊躇いがありました。
自分が静岡県の大学で、そのなかでも静岡県立大学で、
そのなかでも国際関係学部で学んでいるのはなぜか、
自信を持てていなかったことが寂しかったし、悔しかったです。

――寂しさや悔しさがあったのですね。

服部:少子化やグローバル化により大学の存続が難しいいま、
50年後も静岡県に大学はあるのか?
これが静岡時代の静岡県の大学社会、地域社会、そして自分たちに対する問いかけです。
本来、大学はその地域の将来を真剣に考え、その運営に携わる人材を育成する場。
もしも静岡県に大学がなくなってしまったら、地域における学びの文化、
その威信が著しく低下してしまいます。  
静岡県に大学があって、そこで大学生が学ぶことの意義と、
静岡独自の大学文化を自ら掘り起こし、言葉にしていかなくてはいけない。
何より静岡県の大学生であること、静岡県の大学生であったこと、
静岡県の大学に誇りを持てるって嬉しいこと。
いまの静岡県の大学生やこれから後輩になる人たち、地域社会が、静岡県に大学があって、
大学生がいてよかったと思ってもらえるような学びの社会をつくりたい。
そのために、大学生のメディアや出版物の制作、静岡県内のネットワーク構築、
大学生の県政をはじめとした社会参画、高校生への大学PRを行っています。
そしてもうひとつ。「静岡県で学びたい」と集まった人たちを卒業後も静岡県で働きたいと思えるよう
県内企業と大学生による大交流会にも力を入れていきたいですね。

――『静岡時代』の編集部に参加しようと思ったきっかけは何でしたか。

服部:大学2年生のとき大学構内で『静岡時代』を手に取ったことがきっかけです。
ちょうどその頃は、大学生活が1年経って、「大学」というものに慣れ始めた頃でした。
同時に、「大学生ってもっとすごいと思っていた」
「大学ってもっと何かできるところじゃないのかな?」とモヤモヤを抱えていました。
高校生の頃の自分と大差なくて、変わりたいと思っていた時期です。
そんなときに、『静岡時代』を見て、まず単純に「すごい」「かっこいい」と思いました。
雑誌まるごと一冊を大学生がつくるなんてすごくないですか?
よく見ると県内のいろんな大学から集まって活動しているし、刺激がありそうだなと思って、
編集部に入ることを決めました。
もともと文章を書くことも好きでしたしね。

ーーそんな思いがあったのですね。
『静岡時代』は毎号のテーマの切り口が斬新で、
一つ一つの記事が入念に取材・リサーチされていると感じました。
学生の心に響く記事をつくるための、企画・文章の秘訣を教えていただけますか。

服部:文章を書くのを、苦に思ったことはなかったのですが、
静岡時代に入って、初めて企画や文章表現の難しさや苦しさを知りました。
文章って書こうと思えば書けてしまうけど、
相手に伝えて、相手の感情を揺さぶるような、動かすようなものを書くことは本当に難しいです。
企画も同じです。
静岡時代が、企画でも執筆でも一貫して大切にしていることは、
「自分の知っている知識だけで書かない」「自分の主張をもつこと」「読者を想定すること」の3点です。
その企画の意義、読者にどんな価値が残るか、誰のための、何のための文章なのか、
読者をどう動かしたいのか、をひたすら考え、編集会議で揉んでいく。
編集部員一人ひとりが読者になって、それぞれの視点と掛けあわせて、
アイデアをブラッシュアップしていきます。
企画、取材、執筆のいずれにおいても、「今の自分の価値観を越える」ことが求められるんですが、
難しいし苦しい分、それができた時は本当に嬉しいです。
静岡時代に入って、伝えるって面白いなと思いましたね。
本当に奥深くて、まだまだ勉強中です。

――『静岡時代』の編集部に入られてからはどんな体験が待っていましたか。

服部:学生時代はとにかくつくることが楽しかったです。
もちろん苦しいこともありましたし、失敗もたくさんしました。
先生に注意されたこともありますし、社会人の方と就職イベントを企画したときは、
求められていたもの(集客)に対する認識に差があって、悔しい思いもしました。
でも、そうした普段の大学生活では出会えないような人に会えるので、
常に新しい学びに満ちていましたね。
それに「伝える」ということに関して、編集部で学んだ文章の書き方や誌面構成、
企画の立て方は大学の課題やゼミにも応用できて、卒業後の今でも役に立っています。
私にとって、本当にもうひとつの「学校」のような場所でした。
一番嬉しかったのは、他府県出身で、私と同じ静岡県立大学に通っていた学生が
「静岡の大学に進学して、そこに静岡時代があってよかった」と言ってくれたときです。
学食で『静岡時代』を配っているときに、声をかけてくれて。
「自分にはない価値観を教えてくれるし、他の大学にはないから」と言ってくれました。
『静岡時代』が誰かにとって、もちろん私自身にとっても、
静岡県の大学で学ぶことの魅力につながっていることが実感できて、すごく嬉しかったですね。
今でもその言葉は支えになっていますし、そう思える人を増やしていきたいと思っています。

ーーそれは嬉しいですね。大学を選んだ意義を感じるきっかけになったのですね。
今は、もう卒業されて事務局として働かれていますが、
大学卒業後すぐに『静岡時代』に専属で働く道を選ばれた理由を教えていただけますか。

服部:シンプルに「静岡時代をこれから先も静岡県の大学に残していきたい」というのが理由です。
静岡時代は学生団体で、「卒業」という学生の入れ替わりの激しいなか、9年間続いてきました。
よく続いてきたよなと思います。
その背景には、創刊当時からお世話になっている方の存在があります。
出版のプロで、外部のブレーンとして文章の書き方や雑誌のつくりかた、組織の在り方まで、
多くのことを教えていただいています。
いつ潰れてしまってもおかしくなかった小さな学生団体をこれまで支えて、
可能性を最大限に引き出してくれていて、感謝しているんです。  
でもその一方で、学生は4年で卒業していきます。
仮にブレーンの方がいなくなってしまったら、
誰が支えることができるんだろうと。
寄せられる期待も責任も大きくなってきて、卒業生にもっとできることってないかな、
私にできることってなんだろう、と悩んだ結果、学生を支える立場を選びました。
学生だったからこそできなかったことをやろう、と。
いまは、私を含めて卒業生3名が3年前から運営に携わっています。
実活動の主体は大学生であることは変わりありません。
学生が4年でメンバーが入れ替わり、団体としての継続性をどう保つか?という課題も常にあります。
現役生を支えながら、事務局である私たちは、学生が変わらず活動を続けられるよう、
静岡時代の可能性を広げ、着実に実績を積み上げていけるように、
賛助会員やご寄付といった「支援者(仲間)」を増やすことや研修の場づくり、
団体のブランディングなど運営基盤を整えることを今は重要視しています。

――進路について悩むことはなかったですか?

服部:はじめは企業に就職することを考え、就活もしていました。
ありがたいことに内定もいただいて。
でも、意志が弱いと感じられるかもしれませんけど、もしも他社の仕事を始めてしまったら、
「静岡時代のために何かしたい」という思いや危機感が
薄まるんじゃないかと怖かったんです。
愛着はなくならないだろうけど、リスクを冒してまで行動できるかどうか分からなかった。
だから、自分にプレッシャーをかける意味でも、今しかできないことをやろうと決めました。
家族は、はっきりは言わなかったけど企業に就職してほしいと思っていたと思います。
正直今も心配していると思います。
でも、「静岡時代をやる」「つらくても好きなことを仕事にしたい」と決め、
家族に話して認めてもらったとき、これだけは守ろうって決めたことがあります。
健康で、生活するだけの少しのお金があって、私が幸せであること。
2つめが今一番心配なんですけどね(笑)。
家族や周囲の人たちからの応援があってこそ今ここにいれるので、
しんどいこともあるけど本当に幸せだなぁと感じます。
その分、いまお世話になっているみなさんに恩返しがしたいんです。
私や静岡時代をみて、安心してほしい、応援して良かったって思ってもらいたいです。
正直、学生時代は「この活動って誰にどんないいことがあるんだろう?」というのが分からないまま、
とにかく「かっこいいものをつくろう」と続けてきました。
静岡時代は来年で活動開始から10年です。
50年、100年先も静岡時代を積み上げて、「静岡時代」の存在そのものが、
静岡県の大学や地域へ人を呼び込むようなものになったら、嬉しいですし、
静岡県の大学社会の文化や財産になればいいなぁと思っています。
だからこそ、「静岡時代」に参加できる人を増やし、
高校生や県内外の大学生、地域の方々と静岡時代をつくっていきたいです。  
ちなみに、今年の日本フリーペーパー大賞に雑誌『静岡時代』がエントリーしました。
10月から読者投票がはじまるので、ぜひよろしくお願いします。
毎日投票できますのでぜひ(笑)。

ーー日本フリーペーパー大賞、応援していますね!
代表の鈴木智子さんにも、これまでどんな思いで代表をされてきたのかお聴きしていいですか。

鈴木智子さん:私が学生時代に編集部に入った頃は部員数も安定せず、
一時は5人くらいまで落ち込んだ時期もありました。
それからは自分たちの活動を知ってもらい、協賛や応援を募るために外へ外へと開拓していきました。
私も服部と同じように、この活動を続けられる環境を後輩に向けても残していきたい、
残さなくては、と思っていたので、今も引き続き静岡時代のコンセプトに共感して、
雑誌を作りたいという仲間が集まる様子を見て、続けてこれて本当によかったと思っています。
今は雑誌づくりから発展した活動も目白押しです。
実は今日も、静岡県の事業レビュー(旧:仕分け)に参加していました。
静岡県では一般県民からも評価者集めているのですが、
今年は大学生が50名も評価者として参画していたんですよ(実は日本初の取り組みです)。
この大学生評価者を誕生させようという一大プロジェクトに静岡時代として参画し、
私は担当課の方と1年ほど打ち合わせを続けてきました。
当日、緊張しながらも自ら発言する学生の姿を見て、
地域の中で大学生が大きな存在感を示すひとつの契機になったと感じています。
今年の大学生評価者の中から有志が集まって、今後も同レビューなどで継続的に活動する
『ふじのくにづくり学生研究会』も立ち上がりました。
研究会もまだまだこれからですが、とにかく静岡時代は、
みんなのアイデアを持ち寄って何かをつくるのがわりと得意なんだと思います。
一人だけでは成し得なかった広がり、ムーブメントを静岡発でつくって
地域を盛り上ようという試みです。
地方の大学の意味って何?という漠然としたイメージをもつ学生たちがもう一歩、
行動を起こすきっかけを作っていきたいと思います。

☆☆☆☆☆

インタビュー当日は服部さんとお話させていただいた後に、
代表の鈴木智子さん、大学生の編集担当の山口さんにもお話を伺うことができた。
服部さんたちのお話を伺って 編集の傍ら、スポンサーの開拓、イベント運営など
パワフルに活動されている背景には、
言葉にしきれないほどの「雑誌をつくることが好き」という情熱と、
「静岡の大学生が自信をもって、静岡の大学でよかったと言えるようにしたい」
という使命感があるのだと感じた。

『静岡時代』の企画書を拝見したところ、
記事ごとに企画意図や工夫、思いについて文字がギッシリ書かれていた。
編集者一人一人のプロ意識がこんなところにもにじみ出ている。
こうした強い思いと実践が、『静岡時代』のファンの増加につながっているのだろう。

服部さんの「つらくても好きなことを仕事にしたい」という言葉には非常に共感したし、
「好きなことを仕事にする勇気が踏み出せない」という人に
この記事をぜひ読んでほしいという思いでいっぱいだ。
posted by メイリー at 02:32| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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