2015年03月01日

「好き」に忠実に生きるデザイナー・モデリスト file.62(後編)

IMG_0305.JPG

☆前編はこちら☆

ーーそこまで女性が多いとは…!
専門学校でオートクチュールを学ぶことにした決め手は何でしたか。

ササキ:パターンと縫製の両方を学べると思ったからです。
服をお客様に届けるまでのフローを大まかに表すと
企画→デザイン(企画の具現化)→パターン(服の設計図といえる型紙を作る)
→縫製(型紙を形にする)→デザイナーのチェックを受ける→生産管理(量産製造)→販売
という流れがあります。
デザインはセンスが大きく問われますが、
パターンと縫製は技術職なので経験を早くから積むことでしっかり習得できると思ったんです。
そして、どれだけセンスがあってもビジネスとしてやるなら、
経済的成功という側面はついて回ります。
そういうビジネスの世界でいかに信念を持ち続けるかが大事だと思っています。
アーティストとデザイナーって似て非なるものなんです。
前者は、例えば岡村太郎さんみたいに、その人自身の作品に価値を見出すのに対し、
後者は、顧客のニーズ起点で価値をつくり出していくので。
サンプル工場で働いていたときは、
朝早くから夜遅くまで働いても一人暮らしだったので、
なんとか生活ができる程度という、一見過酷な状況でした。
でも、生地や糸など自由に得られるし、先輩方からアドバイスももらえるし、苦ではなかったですね。
服をつくる能力が得られるならそれでよかった。
社長はそのときから今もずっと憧れの存在ですし。

ーーどんなところに憧れているのですか。

ササキ:自分の名前で仕事がきているというところですね。
80年代のバブルと呼ばれている頃ならアパレル業界も花形な業界で羽振りがよかったのですが、
現在は、服へのこだわりは高まるのに、工賃はあまり変わらない、
国内の服飾は淘汰される一方。
そんな中、個人で服飾の会社を継続できていること自体がすごいことなんです。
社長は一見癖はあるけれど、人情にあふれた人。
あの人が私自身の殻を破ってくれたので本当に感謝しています。
学力的な頭の良さと、社会的な頭の良さはまた別物で、
生きていく上では後者が大事だということを教えて下さいました。
自分の価値観と物事を見る視点の多様性を教えてくれた尊敬する人です。
今も仕事の依頼をさせていただくこともありますし、
仕事の有無にかかわらず、時間を見つけては挨拶に伺っています。

ーー毎月ですか。
ササキさんは人とのご縁を大切にされている方なのだろうなぁという印象です。

ササキ:大事にするのが当たり前という感覚があります。
お互い人間ですので、自分とは合わない方もいますが、
この人とご縁があってよかったと思える人の方がたくさんいますね。
専門学校でお世話になった、舞台衣装と色彩を専門にされている先生は、
私が専門学校で講師を始めたとき、私のことを覚えてくれていて。
衣装づくりの仕事をくれることもあります。
企画を教えてくれた先生は、レザーの服のサイズ調整の仕事を下さることもあれば、
逆に私がいっぱいいっぱいなときに仕事の依頼を受けてくださることもあります。
これまで色んな人たちに助けてもらっているので、本当にありがたいですね。
一人でできることは限られていますから。
窮地に陥ったときは「助けてくれるだろう」と待つのではなく、
自ら「助けて」と声を出さなきゃいけないということも学びました。
その一方で、納期までに完成させることは絶対だし、
自己責任の世界といえます。それが面白さでもあるんですが。

ーー助けを求め、支え合うことと、自分で責任と覚悟をもつこと。
その両方が大事なのですね。
この仕事をされていて一番「やっててよかった」と感じるのはどんなときですか。

ササキ:お客さんから「今回もありがとう」「助かったよ」という言葉をいただいたときですかね。
人から求められることは「意味がある」ということ。
分業の仕事だとその「意味」が見えづらくなってしまいます。
自分が関わる意味を見出し、楽しもうという気持ちで臨んでいれば、
必然的に人の役に立つのだと思っています。

ーーササキさんの「信念」は何ですか。

ササキ:「いい意味でワガママに」ですね。
服をつくり続けながら、他の仕事もして、
経済的にも精神的にも「個で立つ自分」でありたいという思いが強いです。
私はあえて「居心地のよくないアウェイな空間」に行くようにしています。
緊張感をもてますし、色々な価値観にふれることができる。
居心地のいい場所にばかりいると、どこかで馴れ合いが生じてしまいますから。

ーー今後の目標や挑戦したいことを教えていただけますか。

ササキ:自分の作品をもっと多くの方に見ていただけるようになることです。
専門学校教員時代に、高校生に向けてアクセサリーや小物をつくる
模擬授業(ワークショップ)を担当したのをはじめ、
色んな経験をさせてもらっているので、
今後はもっと自分の作品を見てもらえるようにしていけたらと思います。

ーーこうした強いモチベーションの源泉は何なのでしょう?

ササキ:20歳のとき交通事故で九死に一生を得たことが大きく影響していると思います。
友人の車の助手席に乗っていたのですが、運転に慣れていなかったのもあって、
強引に右折してしまった為、直進車両との衝突事故を経験しました。
助手席に乗車していた為、アバラ骨骨折などの大ケガを負いました。
そのときの記憶は強く残っています。
幸い脳の損傷などもなく、こうして回復して生きていますが、
たまに「このまま寝たら死ぬのでは」と思うことがあります。
ということは「生きてるだけでラッキー」なんです。
生きていることが当たり前ではない、死生観を意識しながら生きているので、
つらくとも「あのときに比べたら何とでもなる」という思いがあります。

☆☆☆☆☆

英語に down to earth という言葉がある。
「地に足がついた、現実的な」という意味だが、
ササキさんのお話を伺って、真っ先にこの言葉が浮かんだ。

高校時代にファッション甲子園に応募するなど、
自分の好きなことを早くから見極めて力を注ぐ姿に感銘を受けた。

どんな経験も糧にし、着実に夢を現実に変えていく。
実績と信頼を積み上げながら、自分の軌跡を残していく。
そんな勇気と真摯さを、感じずにはいられなかった。

好きなことを「持続可能」にすること。
そのために、自立した自分らしいワークスタイル、ライフスタイルを模索する大切さを、
彼の信念や考え方から学ばせていただいた。

彼が今後どんな作品を生み出していかれるのか、
展示会が今から待ち遠しくてたまらない。
posted by メイリー at 17:22| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする