
星加武史さん。
リクルートにて飲食店や企業採用情報サイトの営業、
大学生向けキャリア支援事業の立ち上げを経験した後、
『人の可能性を最大限に引き出す』場づくりに興味を持ち、独立。
高校生や大学生、アスリートキャリア支援講座のコンテンツ設計・ファシリテーターを中心に、
野外活動などを通した幼少・青年期の人間力形成にも携わる。
趣味は、カメラ、ミュージカル俳優、合唱、ロードバイクと幅広い。
☆☆☆☆☆
――2013年夏にお願いした「教育×キャリアインタビュー」以来ですね。
あれから色々な変化があったかと思いますが、現在の活動を教えていただけますか。
星加武史さん(以下敬称略):現在は主に就活生や若手社会人向けのキャリア支援講座で
コンテンツ設計やファシリテーターを行いつつ、
企業研修講師や高校生向けのワークショップにも携わっています。
あとは、数年前に登山の魅力に目覚めてから、登山ガイドとカメラの仕事も始まりました。
あとはライフワークとして子どもたちとミュージカルに出演しました。
――多彩な活動をされているのですね!
色々お聴きしたいのですがまずはカメラのお話を聞いていいですか。
星加:2年前までカメラは趣味だったんです。
ですが、戸高雅史さんという登山家の方と一緒に子どもキャンプに行って写真を撮っていたら、
親御さんたちが「うちの子がこんな表情するんだ…!」と非常に喜んでくださって。
それ以来、フォトグラファーも兼ねてキャンプや登山の引率をしてほしいという
依頼が増えてきました。
まだプチプロという感じですが、子どもたちが生き生きした瞬間をとらえようと思っています。
――いい瞬間をとらえるために心がけていることって何でしょう。
星加:「この表情を撮りたい」と思った瞬間にシャッターを切るに尽きるのですが、
カメラって撮影する人の無意識の部分も映し出すんですよ。
後で写真を見て「なぜこんなのが写ったんだろう?」って感じることありませんか。
あれは自分の無意識が注目したものが投影されているんです。
カメラも場づくりも「相手(被写体)が気づいていない良いところを引き出す」
という意味で、似ているなぁと思います。
例えばキャリア支援のワークショップでも、その場に参加している人や全体の変化をキャッチして、
「なんだかクラス全体が明るくなってきたね」、
「さっきより○○さん、いい表情してる」などと伝えるようにしています。
――カメラと場づくりにそんな共通項があるのですね。
就活生向け講座でファシリテーターをしていて、普段どんな風に感じていますか。
星加:僕が出会う就活生の約9割はこれまでレールに乗っかってきた子という印象です。
大学生までは、それで何とかやれますが、就活で突然自ら道をつくらざるを得なくなります。
ただ、逃げ場がないときだからこそ、彼らにとっては自分と深く向き合うチャンスなんです。
事前に彼らの状況を想像しながら、どうやったら自分の可能性に気づけるだろう、
自分に自信が持てる時間になるだろう、と
プログラムの設計を考えているときはすごく楽しいですね。
ですが、時には、講座の現場を見て、構想を全部手放すこともあります。
学生のその瞬間の状態によって必要なものが違うし、
参加者のニーズを遮ってこちらがやりたいようにやっても、つまらない場にしかならない。
例えば「元々コミュニケーションの質の深め方をテーマにするつもりだったんだけど
みんなの様子を見ているとコミュニケーションの数の増やし方に意識が向いてるみたいだね。どうする?」
と彼らに尋ねて、やる内容を決めてもらうんです。
用意してきたものを全て捨てるのも面白いですよ(笑)
ファシリテーターの自分が触媒になって、人を元気にする空間を生み出すのは
何度やっても楽しいなぁと感じます。
――当日現場に行って内容を変えることもあるとは…!
ワークの引き出しをたくさんもっている星加さんだから可能なのでしょうね。
いい講座やワークショップの条件って何でしょう。
星加:前に立つファシリテーターのあり方と、プログラムのコンテンツ、
そして受講者の状態がピタッと一致するときでしょうか。
特にファシリテーター自身の想いや願いがあるかどうかは大事ですね。
企業研修の場合なら、企業のトップや人事など、
受講者を取り巻く関係者たちの意向とどう噛み合わせるかという視点も大事になってきます。
――研修がうまくいかないときってありましたか。そんなときはどう浮上しているのでしょう。
星加:うまくいかないときはめちゃくちゃいっぱいありましたよ〜。
でも、その二度とない空間を最高のものにしたい、という気持ちが強いんです。
だから、そうならなかったときは、悔しくて悔しくて。
僕って普段は適当でいいかげんな人間なんですが(笑)、
キャリア支援においては100%のものを提供することにこだわっています。
そうしないと後悔します。
自分が関わった人が、自分に自信を取り戻し、
目をキラキラさせて次のステージに向かっていけるかどうか、がかかっていますから。
その責任を背負っているプレッシャーは大きいです。
でも、その瞬間に立ち会えるのは、仕事冥利につきます。
――今のお仕事は星加さんにとっての天職なのでしょうね。
ファシリテーターをしていて、一番つらいときってどんな場面でしたか。
星加:ファシリテーターや仕事に限らず日常もですが、自分の心に素直になれないときですね。
何かをうまくやったつもりでも、心がしっくりきていない。しかも理由がわからない。
心に素直に生きられるようになったのはついこの4, 5年なんですよ。
――つい4, 5年ですか。
星加:そう。31、32歳頃までは「自分がやりたいことって何だろう?」
「どの分野でスペシャリストを目指せばいいのか?」と試行錯誤の日々でしたから。
リクルート時代も、入社当時はバリバリの営業マンになろうと意気込んでいたのに
結果がついてこなくて悩んだ時期もありました。
リクルートを辞めた後も、モヤモヤした時期が続きました。
ファシリテーターの仕事をやりながら、
小学生向けの塾で国語を教えていたのですが、しっくりこない。
子どもたちと接するのは好きなので、一時期は小学校の先生を目指して専門の勉強をしていましたが、
結局続きませんでした。
そんなときキャリアフラッグの代表である
熊澤に「キャリア支援を手伝ってくれないか」と声をかけてもらったのが、大きな転機となりました。
学生時代に知り合った友人なのですが、何かご縁を感じて即座にOKしました。
これを契機に、いい循環に入っていきましたね。
気がついたら、目の前の仕事に没頭していました。
遠くに探し求めていた「目指すもの」が、実は、「今」からしか生まれないんだなって。
よく聞く言葉ですが、本当にそれを実感しました。
「夢をもたなきゃ」って言う学生が多いのですが、なくてもいいんですよ。
ある程度方向性を決めておけば、偶然の出来事やご縁を通して、自分の道が見つかっていきます。
それよりも「今、ここ」での経験を味わい尽くすことが大切。
前に進むばかりでなく、悩んでしゃがんだり、何歩も下がるときがあってもかまわないんです。
僕自身、今の自分があるのは、もやもやしながらも
20代から30代前半に経験を積み重ねたことが大きかったです。
目の前のことに本気でぶつかって、悩んで、そこから感じることを大切にするしかないですね。